本紙の白老支局の近くに住むおじさんが「いや~、良かった」と言いながら記者に近づいてきた。にこにこ顔の理由は、白老町で今月24日に予定されていた民族共生象徴空間(ウポポイ)開業の延期が決まったからだ。新型コロナ対策で5月末へずらす政府判断に「周りの年寄りはみんな喜んでいますよ」とおじさん。他地域から人が集まる施設だけに、開業でウイルス感染が広がる事態になれば大変。万が一を想像し、仲間内でそんな心配をしていたという。
人口の半数近くが65歳以上という超高齢化の町。高齢者の重症化リスクは高いとされているだけに、不安が住民の間にまん延している。ウポポイ開業による経済活性化への白老町や経済界の強い期待は分かるけれど、最も大事なのは命を守ること。国家プロジェクトと言えど、町は住民目線で懸念を国に伝え、感染防止策を地元からしっかりと求めるべきだ。
新型コロナウイルスを甘く見てはいけない。世界保健機関(WHO)は、現状の致死率がインフルエンザの10倍と警告する。感染拡大が止まらず、道内でも患者が再び急増し第2波の様相だ。日本が外国のように医療崩壊、死亡続出の悲惨な状況にならないとは言えない。全てにおいて命を守ることが最優先。ウポポイについても町は誰か、何かに配慮し必要な対策、意見を国に伝えることをためらうなどあってはならない。(下)