私は3月からウトナイ湖サンクチュアリで勤務を始めたばかりです。私の勤務開始に合わせるように、マガンが本州方面よりウトナイ湖に飛来するようになりました。というわけで、私のウトナイでの最初の1カ月はマガンに始まりマガンに終わりました。
マガンは渡り鳥です。ロシア極東で繁殖を行い、日本各地(東北、北陸、山陰)で越冬します。生まれて2カ月余りの若鳥を連れて、冬が早く来るロシアを離れ日本に向かいます。命を次世代へつないでいくために、そのような危険な渡りに挑むのです。ウトナイ湖はそんな渡りをするマガンたちにとって重要な中継地点となっており、毎年秋と春、往路復路共に休息と採食のために利用される、いわば高速道路のパーキングエリアのような場所です。渡りのピーク時には大型連休のパーキングエリア同様、大変な混雑となります。
中継地点として選ばれるのには幾つか理由があります。夜も安心して休むことができる水域、近隣に食事に出かけることができる田畑、それら必要な条件がウトナイ湖にそろっているからなのです。北海道内では幾つかのガン類の中継地点があり、ウトナイ湖のほかには美唄市の宮島沼などが有名な観察スポットとなっています。
ウトナイ湖サンクチュアリでは毎年3月に渡りの途中で立ち寄るマガンの羽数調査を行っています。ほかの施設と情報を共有しながら毎年その数をカウントすることにより、渡りのルートや群れの謎などの解明に役立てられるのです。今春、最も多くカウントされた日は3月18日、その数は7万4700羽以上でした。
春の渡りの際、マガンは夜の間は湖面で休息し、夜明けとともに近郊の田畑へ食事に出かけます。そして日暮れ時にまたねぐらとなるウトナイ湖に戻って来ます。ですので、ウトナイ湖でマガンの観察をするには早朝もしくは日没時となります。眠気と寒さとの戦いになるのですが、一見の価値があります。苫小牧にお住まいの方でまだ見たことがないという方は、来年の春、ぜひ一度訪れてみてください。
正岡子規の俳句「きのふ來(き)てけふ來てあすや雁いくつ」。まさにそのような心持ちでウトナイに通う毎日となりました。さあ、マガンは見送ったので今度は夏鳥たちを迎える準備です!
(日本野鳥の会ウトナイ湖サンクチュアリ・中村太一レンジャー)