㊥ 安平の「佐藤菓子舗」佐藤けい子さん(72)「仕事できて幸せ」 廃業危機も仮設で存続

  • 特集, 胆振東部地震から1年半 今を生きる
  • 2020年3月6日
営業を再開した仮設店舗に立ち続ける佐藤さん
営業を再開した仮設店舗に立ち続ける佐藤さん
震災から半月後、半壊した自宅兼店舗
震災から半月後、半壊した自宅兼店舗

  「商売を続けられるのが何よりうれしい」―。安平町早来大町で創業102年の和菓子店「佐藤菓子舗」を切り盛りする佐藤けい子さん(72)は、みなし仮設住宅のアパートと仮設店舗を往復する生活を昨年4月から送っている。

   佐藤さんは旧静内町(現新ひだか町)から21歳で老舗菓子店に嫁ぎ、半世紀にわたって経営に携わってきた。3代目の夫政紀さんが76歳で亡くなった5年前から次女智栄さん(45)と母娘2人で経営し、夫から受け継いだ素朴な手作りの味が評判だった。

   あの日(2018年9月6日)、自宅兼店舗は大きく揺れて半壊した。外壁に亀裂が入り、店内は割れたガラスや商品が散らばり、大型冷蔵庫はひっくり返った。併設する工場では、あんこを作る機械が壊れてしまった。再建するには多額の費用が掛かることが分かり「家も店も失った。もうだめだ」と、すぐに廃業を決意した。

   その気持ちを一変させたのが町内外の常連客だった。「大丈夫かい」「何か手伝うよ」「差し入れ持ってきた」―。電話や来訪がひっきりなしだった。

   「私たちは周囲のみんなに支えられて生きている」。地震があったからこそ、実感することができた。「店を続けることで恩返ししたい」と思い直した。被害を受けた自宅と店舗を少しずつ片付けながら、地震から半年後の昨年4月、町が整備した仮設店舗での営業再開にこぎ着けた。

   待ちわびた常連客はもちろん、復興のシンボルとして「道の駅あびらD51ステーション」が町内にオープンしたこともあり、毎日40~50人の客でにぎわう日々が秋まで続いた。

   ところが冬の閑散期を迎えて客足は大きく減り、来店者は1日10人程度に落ち込んでいる。メインストリートにあった商店も地震の被害で次々と廃業し、更地が目立つ。「人通りがめっきり減り、寂しくなった」。仮設店舗のため3年間は家賃無料だが、現在の売り上げでは材料費や水道光熱費を賄うので精一杯。無料期間が終了する1年半後は「家賃を払えるか」と、先行きの見えない不安を抱えている。

   「子どもたちに迷惑をかけたくない」と、みなし仮設住宅のアパートに一人で身を寄せ、今月から家賃の安い町営住宅に引っ越した。早朝6時15分から仮設店舗で材料の仕込みを行い、智栄さんが作った菓子を販売する生活は変わらない。足腰が痛くて立ち仕事はきついものの「50年住んでいるふるさとで、大好きな仕事ができる自分はとても幸せ」。きょうも店に立ち、笑顔で客を迎える。

  (伊藤真史)

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