国内外の各種自転車競技大会で活躍してきた苫小牧市在住の木賊(とくさ)弘明さん(40)=白老町役場=が、選手生活にピリオドを打った。昨秋出場した第74回国民体育大会(茨城県取手競輪場)で、目標に掲げてきた節目の10回目の国体挑戦を達成。ひたすらに速さを追い求めてきたトラックレース舞台から退いた。「いろんなことを犠牲にしながら、やり切ることができた」とすがすがしい表情を見せた。
引退の2文字が頭に浮かびはじめたのは2018年のこと。9回目の国体出場を目指していた時だった。年々、トレーニングや食事管理など試行錯誤しながら速さが増す一方、決して若くない年齢。年を重ねるごとに体が言うことを利かないもどかしさも感じていた。「連続出場が途絶えれば、その時点で引退」。プレッシャーで食事は喉を通らず、眠れない夜もあった。
ただ、妥協はしなかった。自身を自転車競技に導いてくれた恩師にどうしても並びたかったからだ。北見市の実家近くに住んでいた元アマチュア王者の中村真司さん。高校時代に一緒に練習しながら競技のイロハを教わった。「出会った時の中村さんは30代前半。それでも競技へのストイックさはすごかった」と振り返る。
木賊自身は大学時代に4年連続で国体出場後、就職などを機に1度競技から身を引いた。忙しい毎日にめどが立ちはじめた7年前、ふと競技への情熱が再燃したと同時に、当時の恩師と同じ年代に達した自分がいた。「記録に並びたい」。力強く再スタートを切った。
輝かしい6年連続の国体出場はもちろん、17、18年には日韓スポーツ交流・成人(30~70歳)交歓交流にも参加した。18年にイベント内で出場した全国生活体育大祝典自転車競技(韓国)では2・5キロのタイムトライアル、15キロのロードレース2種目の総合順位を競い、見事銅メダル獲得。「結果が出た時の達成感が競技の魅力。その味を知ってるからこそ、厳しい練習も乗り越えられた」と胸を張る。
ただ、犠牲も払った。特に輪人君(10)、りいなちゃん(7)の2人の子どもと接する時間をほとんど練習に充ててきた。引退直後は「一緒に何をして遊んだらいいか落ち着かなかった」と木賊さん。夜な夜な自宅の練習場でトレーニングバイクをこぐ「練習している人」は、ようやく「父親になりました」とはにかむ。
一線こそ退いたが、昨春に就任した北海道科学大高自転車競技部のコーチングを継続、幅広い年齢層に競技の楽しさを伝える活動に力を入れていく構え。作業療法士の資格を生かした取り組みも模索中。木賊さんの挑戦は新たなステージに突入している。