「名人」技は刺激的だ。
真剣勝負の場は直径15センチばかりの氷の穴。奥を凝視すると、暗い水中で小さな白い点がゆらりと遊ぶ。かすかに不自然に動いた瞬間、はじかれたように指が動く。魚信の捉え方と合わせに、技がある。
瀬川さんが見ているのは餌の動き。水中の魚は見ない。魚が餌をつついたタイミングを逃さないためだ。
手釣りだから、寒風吹き付ける氷上では体力的にもつらい。だから魚の活性が低い時に釣果を上げるには、仕掛けに魚を寄せる技術、魚をすれさせない工夫が必要。仕掛けの動かし方に尽きる。活性が高ければ、多数針の仕掛けをさおで垂らし、軽くしゃくって当たりを待てばいい。
「昔、名人に教えてもらって一本釣りをやるようになった。針は小さい方がいい」と瀬川さん。使うのは0・8号。常連の中にはもっと小さい針を好む人もいる。餌のサシは常に半身だ。水中の白いサシがちょんと小幅に横に動く時、素早く小さな動作で糸を手繰り魚を掛ける。
ワカサギは一般に「向こう合わせ」。が、瀬川さんは違う。合わせは明確にある。