(5)千歳アイヌ文化伝承保存会 川浪(かわなみ) 一輝(かずき)さん(16) 龍斗(りゅうと)さん(14) 兄弟の心に根を下ろす哲学 作法や舞踊、きちんと伝えたい

  • 未来へ~アイヌ文化の担い手たち, 特集
  • 2020年1月10日
「エムシリムセ(剣の舞)」を踊る一輝さん(右)と龍斗さん
「エムシリムセ(剣の舞)」を踊る一輝さん(右)と龍斗さん

  「伝統衣装を着ると、アイヌ民族であるという意識がより強くなる」。そんなふうに熱っぽく語る、仲の良い兄弟がいる。兄は高校2年、弟は中学2年。千歳市特有のアイヌ文化を継承する活動に地道に取り組み、担い手として将来を嘱望されている。

   石狩市出身。4人兄弟の三男と四男で2015年から千歳市に住んでいる。それぞれ札幌の高校、千歳の中学校に通いながら伝承活動を続けている。

   千歳市出身でアイヌ民族の母和美さん(48)が、札幌市南区小金湯の「ピリカコタン」で舞踊を学ぶ姿を見ながら育った。伝統の踊りや歌が日常生活の中で当たり前だった環境。「自分たちはアイヌ」という意識を幼かった2人に根付かせた。

   伝承活動には5年ほど前から関わってきた。アイヌ語をインターネットの動画投稿サイトで勉強し、15年に千歳市で開かれたアイヌ語弁論コンテストに龍斗さんが出場。優秀賞を獲得すると千歳アイヌ協会の幹部に声を掛けられ、千歳アイヌ文化伝承保存会に入った。

   保存会では、同会会長の石辺勝行さん(74)や若手伝承者の佐々木翔太さん(25)から舞踊や儀礼の意味、伝統漁具マレクの使い方などを学ぶ。2人は「伝承活動に取り組むのは当たり前の感覚」と異口同音に語る。そんな姿に和美さんは「堂々と誇りを持ってやってくれている」と目を細める。

   アイヌ民族の哲学は、兄弟の心に深く根を下ろす。「サケや獲物は捕るのではなく、『頂く』。食べ物には感謝しなければならない」と龍斗さん。一輝さんも「何事も作法が大事。その一つひとつに意味がある」と力を込めた。北の大地で自然と共生してきた先住民族の心を胸に刻む日々だ。

   ニュージーランド・マオリ族や米・ハワイの先住民族と交流してきた経験も強い刺激になっている。「自分はマオリだ」と胸を張り、民族として誇りを持つ姿に自らもこう在りたい―と思う。

   一輝さんは目下、アイヌ語や博物館収蔵の関連資料に高い関心を寄せる。「日常の暮らしの中で育まれてきたアイヌ文化が特別ではなく、普通のことになればいい」。龍斗さんは舞踊をもっと勉強し、心の底から理解できるようになろうと決意。「アイヌ文化を知らない人にも、きちんと伝えられるようになりたい」と目を輝かせる。

   次代を担う、2人の若き伝承者。先人たちの心を受け継ぎ、守っていく信念に揺らぎはない。

  (千歳編集部・平沖崇徳)

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