(4)国立アイヌ民族博物館設立準備室(34) 押野(おしの) 朱美(あけみ)さん 民族共生象徴空間運営本部文化振興部 秋山(あきやま) 里架(りか)さん(34) 姉妹で文化に触れ成長 認め合う意識、多くの人に伝えたい

  • 未来へ~アイヌ文化の担い手たち, 特集
  • 2020年1月9日
「文化の多様性が認められる社会に」と語る押野さん(左)、秋山さん姉妹

  かゆを「サヨ」と呼び、山に入る前には木に米や酒などを供え、祈りをささげる。

   むかわ町で伝承者として活動する祖母吉村冬子さん(93)の影響もあって、幼い頃からアイヌ文化が身近な生活を送ってきた。地域の生活館で行われる古式舞踊の練習に毎月のように参加。覚えたてのアイヌ語を披露し、大人たちに褒めてもらうのが双子の姉妹の楽しみだった。他の家庭でも同じようなことをしていると思っていたがそうではないと気付いたのは、小学校3年生の時だった。

   先祖が大切に守り、受け継いできた固有の文化が自分たちの生活に根付いていることを知ると同時に、クラスメートから差別的な言葉を浴びせられることが増えた。

   それでも、アイヌにルーツを持つことを嫌だとか、恥ずかしいなどと思ったことは一度もない。強い絆で結ばれた姉妹。互いの存在が心を強くし、自身のルーツへの誇りを失わずにいさせてくれた。

   むかわ町出身。小学1年生で民謡を習い始め、5年生の時から江差追分に本格的に取り組む。民謡に触れる中で同じ日本でも地域によって文化、風習などが異なることを学んだ。中学生になって「アイヌとしてどう生きていくべきか」という問いが自然と2人に芽生えた頃、道アイヌ協会の事業でカナダを訪問。先住民族と交流する機会に恵まれた。相手の文化も尊重する現地の人々の姿に感銘を受け、「認め合う意識を多くの人に持ってもらえるような存在になりたい」と、目指すべき未来像がおぼろげながらに見えてきた。

   姉妹そろって駒大苫小牧高校に通い、環太平洋・アイヌ文化研究所がある苫小牧駒沢大学に進学、研究に没頭した。在学中は学内のアイヌ文化学生フォーラムの実行委員を姉妹で担当。卒業後もアイヌ文化の研究と伝承活動を継続した。2012年にはラジオ番組でアイヌ語講座の講師を務めた。

   18年3月に閉館した旧アイヌ民族博物館で働いていたが同年4月の公益財団アイヌ民族文化財団発足に合わせ、それぞれ現在のポジションに就き、4月の民族共生象徴空間(ウポポイ)の開設に向けた準備に励む。

   国立アイヌ民族博物館の展示構成に、学芸員として携わる押野さんは「言葉や暮らし、歴史など六つのテーマを想定している。五感に訴える内容にしたい」と意気込む。秋山さんは、ウポポイで展開する子ども向け体験プログラムを考案中。「アイヌ文化も世界に存在する多様な文化の一つであることを伝えたい」と、アイヌの生活用品を取り入れたままごとセットなどの製作に打ち込む。

   共にあらゆる世代の人たちにアイヌ文化の魅力を発信しつつ、互いを認め合えるような社会の実現に寄与したいと思っている。

  (姉歯百合子)

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