白老町社台にあるアイヌ民族文化財団の博物館運営準備室に通い、アイヌの歴史や文化について北海道大学の北原次郎太准教授、民族芸能保存会の関係者らから学んでいる。
4月に開業を控える民族共生象徴空間(ウポポイ)の職員として、来館者の疑問に答えていくための大切な準備だ。
昨春から同財団の文化振興部伝統芸能課に籍を置く。役職は主事。配属以来、歌や踊りの練習、全国各地でのウポポイのPR活動に忙しい日々だが「お客さんの知りたいことにちゃんと答えていけるよう頑張りたい」と目を輝かせる。
白老町出身で、苫小牧高等商業学校、札幌大学を卒業。大学では地域共創学群の歴史文化専攻生として、研究者本田優子教授のゼミに入り、アイヌの古式舞踊や歌謡の歴史と変遷について勉強してきた。
祖母と母が昨年3月に閉館した旧アイヌ民族博物館で働いていたこともあり、アイヌ文化はずっと身近で愛着を感じる存在だった。幼い頃、自身がアイヌであるという自覚はなかったが、2歳の時に亡くなった父が古式舞踊の踊り手だったことは母から聞いていた。高校3年になり、母が古い映像を見せてくれた。映っていたのは旧博物館の職員として踊る若い父の姿。古式舞踊のエムシ・リムセ(剣の舞)を勇壮に舞う姿にぐっと引き寄せられた。
自身のルーツが分かり、父が踊っていた舞踊の意味や文化について深く知りたいと、大学進学を決めた。誇りを持って歴史や文化を学ぶ先輩たちの背中を追うように、勉学に励んだ。
研修の傍ら、地元・白老の音楽祭や海外のPRイベントに出演している。昨年6月の第3回イランカラプテ音楽祭inしらおいが初舞台で、約20人のチームの一員として「サルルンカムイ・リムセ(鶴の踊り)」を披露。8月にはJR札幌駅の地下歩行空間で一人、ムックリを演奏した。
目の前にたくさんの人がいて緊張したが、演奏後の大きな歓声と拍手に感動で胸が熱くなった。11月には観光庁のPR事業の一環で、タイ・バンコクや中国・四川省成都に出張。「今はアイヌ文化をどんどん学び、発信できるのが楽しくて」。顔をほころばせた。
「自分の好きな事を仕事にできていることを、うれしく思う」。常に勉強の気持ちで臨み、正しい知識を持った伝承者であろうと心に誓っている。
(半澤孝平)