「本当に来ないの?」―。カジノを含む統合型リゾート施設(IR)の誘致をめぐり、北海道の鈴木直道知事が11月29日の道議会で国への区域認定申請見送りを表明して3週間余り。しかし、賛成派、反対派の双方からはいまだに戸惑いの言葉を聞く。知事が決断しても疑心暗鬼と未練の思いを断ち切れないという人は少なくないようだ。
誘致の根拠となるIR整備法が成立したのは2018年7月。道内では苫小牧市、釧路市、後志管内留寿都村の3自治体が誘致レースに名乗りを上げ、その後、苫小牧が優先候補地になったが、国に申請できる立場として重要な鍵を握る道は主体性に欠けていた。今年7月の参院選で道知事からくら替えし、初当選した高橋はるみ氏は知事時代、誘致の是非をのらりくらりとかわし、決断を後任に押しつけた格好となった。
後を継いだ鈴木知事も知事選の公約ではIR誘致の是非を「道民目線を大切に判断する」とし、当選後もなかなか態度を明らかにせず、10月2日の道議会でようやく「年内に判断する」と意思表明した。
この間、全国では招致レースが本格化している。道内では後れを取らないよう、経済界を中心とした推進派による知事への働き掛けが加速した。同21日には道経済連合会など道内経済4団体が共同で道に早期のIR誘致表明を促す「緊急共同宣言」を発表している。
優先候補地の苫小牧市では、岩倉博文市長が同28日に市議会臨時会を急きょ招集。候補地の植苗地区を対象とする環境影響調査費の補正予算案、さらに議員提案でIR誘致推進決議案がそれぞれ賛成多数で可決された。慣例だった全会一致の決議ルールを覆した対応には「道から水面下で打診されたのでは」との見方もくすぶっていた。
誘致の「推進」と「断念」がせめぎ合う中、鈴木知事は急浮上した候補地の環境課題を挙げて「今回の区域認定申請は見送る」と表明した。しかし、「道のピンチをチャンスに変える大きな原動力」など誘致の可能性を残す考えを示していることに、「どっちつかずだ」との批判も出ている。
一方、苫小牧市の担当者は先送りの理由を環境課題としたことに、「道の条例では50ヘクタール以上の開発に環境アセスメントが必要。当市はその面積未満で検討しており、独自の環境影響調査も始めたばかりだった」と指摘。「知事の真意を確認したい」と厳しい表情で語る。
苫小牧市はIRと、東京の投資会社MAプラットフォームが進める高級リゾート計画を2本柱とした「国際リゾート構想」(2018年6月公表)を掲げる。これらはいずれも新千歳空港に近い市内植苗地区が予定地だが、IR誘致の先送りを受けて高級リゾートも計画期間の延長を表明。市としては構想の練り直しを迫られている状況だ。
IR誘致を訴えてきた市民団体は「知事は今後の北海道の経済発展をどう考えているのか。IRに変わる施策を早急に示してほしい」と注文を付ける。一方、反対派の市民団体も「完全にあきらめたと言っていない。今後も警戒していかなければ」と注視する。岩倉市長は週明けにも鈴木知事と懇談し、今後の方向性を見極めたい考えだ。
(報道部 河村俊之)