木版画の窓【中】 骸骨を描く 文学を題材に、均整取れた骨格描写

  • 木版画の窓, 特集
  • 2019年12月18日
「犍陀多」(1975年制作、木版多色刷、50.5センチ×37.2センチ)=個人蔵

  浅野武彦は生前、好きなものとして生物(生命)、美術、文学の三つを挙げ、このうち文学については、作品の題材にも取り入れている。

   本作品「犍陀多(かんだた)」はその一つで、カンダタという男がお釈迦(しゃか)様が垂らす1本のクモの糸をつかんで、地獄からはい上ろうとする芥川龍之介の小説「蜘蛛(くも)の糸」に着想を得た。

   カンダタを骸骨、地獄を深海として表現し、男がつかむ糸を画面に描かず、見上げるような角度から描写することで、その先の情景を鑑賞者に想像させる。

   荒々しく迫り出た岩の影の闇のような黒色と対照的に、鮮やかで深い青色が画面を満たしており、鑑賞者に深い印象を与える。

   骨格の均整が取れていて、迫力を感じさせる骸骨は、医師の経験によって鮮明に描写され、明暗を絶妙に使い分けることで、深海の闇に浮かび上がっている。

   浅野は1975年、同作品を全道展に出品し、全道美術協会会員に推挙されている。

   明快な構図と共に、鑑賞者の想像をかき立てる作品は、文学を素地とした独自の味わい深い世界観を感じさせる。

   (苫小牧市美術博物館学芸員 大谷明子)

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