苫小牧市美術博物館で、企画展「浅野武彦の木版画の世界」が開かれている。同展では川上澄生に師事した木版画家で、医師でもあった浅野武彦さん(1927―2016年)の作品が並ぶ。同館学芸員の大谷明子さんが、3回にわたり作品の魅力を紹介する。
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浅野武彦は札幌市生まれで、北海道大学医学部を卒業後、苫小牧市内で内科医師として勤務する傍ら、生涯にわたって木版画作品の制作を続けた。風景、動植物、骸骨などを描いた作品からは、自然の力強さや繊細さへの驚嘆と、生命あるものに対する愛情が感じられる。それぞれの作品が、「愛情」という光の元で捉えた世界への窓のようだ。
学会に出席するため各地へ足を運んだ際には、夫人の智枝子さんと各地の岩場を訪れ、制作のための取材を行った。各地で得たみずみずしい感覚を元に、岩肌に刻まれた力強い自然の造形を作品に描き出した。風景画では、岩肌や樹皮、雪といった自然の造形を描写する一方で、空には丸みを帯びた雲を描き、作品に親しみを添えた。
作品「雲」では、浅野の風景画に特徴的な雲に焦点が当てられている。空に丸みのある雲を浮かばせ、波が打ち寄せる海岸を前景に、光を受けて陰影を克明にする岩壁を遠景に配している。雲を多数描き込むことで、空間に奥行きを作り、空の広さを表現している。
波やどっしりとした岩肌の質感を簡明な線で的確に捉える一方、雲は丸みを強調して描かれ、独特の穏やかさと温かみのある景色に仕上げている。
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企画展は来年1月19日まで。午前9時半~午後5時(入館は午後4時半まで)。月曜、年末年始(29日~来年1月3日)休館。観覧料は一般300円、高校、大学生200円、中学生以下無料。