2019年は東胆振1市4町(苫小牧市、白老町、厚真町、安平町、むかわ町)をはじめ、札幌市など道内各地でヒグマの目撃が急増した1年だった。苫小牧署に入った管内のヒグマの目撃に関する通報件数は11月末時点で115件。18年の合計62件を大きく上回り、同署や各市町は例年以上の対応に追われた。
専門家は限られた個体が連続して出没したことが件数を押し上げた可能性が高いと指摘。「農作物や残飯を求めて人の生活圏に依存するクマが増加傾向にある」と懸念を示している。
一方、自治体にも数多くの情報が寄せられている。12月10日現在、足跡やふんなどの痕跡のみも含めると、苫小牧市45件(前年同期比8件増)、白老町53件(同45件増)、厚真町56件(同27件増)、安平町13件(同6件増)、むかわ町25件(同7件増)と全ての市町で増加。中でも白老町と厚真町が顕著だった。
白老町は昨年1年間でわずか8件だったが、今年は7月下旬から9月上旬にかけて目撃が急増。8月時点の通報件数は約20件に上り、出没場所も社台から虎杖浜まで広範囲に及んだ。8月15日には社台地区の農場でトウモロコシが食い荒らされる農業被害も発生。町は拡大を防ぐため、20日に幅1メートル、長さ2・7メートルの箱わなを設置した。16年9月以来約3年ぶりの対応だが、捕獲するには至っていない。
厚真町では6月の目撃が最も多く、この1カ月だけで27件の情報が入った。収穫期を迎えていたビート畑では食害が頻発し、町の担当者は「昨年よりも状況はひどい」と話した。
苫小牧市は12月10日までに前年同期比8件増となる45件に上った。最も増えたのは厚真町と同じ6月で16件。静川、柏原など東部地区が多く、5日には勇払市街地から日高方面へ約150メートルの地点で目撃されるなど、地域住民の生活エリアと近接する場所でも確認されている。
ヒグマの市街地出没は、好物とされるドングリなど山の木の実の豊凶に影響されやすい部分もある。ただ、ヒグマの生態学を専門とする道立総合研究機構環境科学研究センターの間野勉自然環境部長(59)は、今年の目撃急増について「特定の限られた個体が人間の生活圏から離れず、執念深く活動を続けたためではないか」と言う。餌を探して人里に迷い込んだクマが残飯や農作物を見つけ、その場所を餌場と学習。同じ場所を繰り返し訪れるようになることで人への警戒心が薄れ、「人の生活圏に依存するクマ」が全道的に増えていることが背景にあると推測する。
この状況を減らすにはどうしたらいいのか。間野部長は「残飯など、ヒグマを引き寄せる可能性があるものを放置しないように」と訴える。同センターは農地での対策として電気柵を設置するなどヒグマを侵入させない対応を呼び掛けるが、資材購入や設置に係る負担が少なくないという課題もある。
宅地開発の進展がヒグマの生息域まで広がったことも一因とされ、日常生活で誘因要素となる生ごみの適正処理などは重要な対策の一つ。ただ、かつてないほどの出没・目撃情報は住民にとって大きな不安。地域と行政の連携による効果的な対策も急務となっている。
(報道部 小玉凜)