(4)求められる新戦略 国際リゾート 構想の見直しは不可避、地域づくりに市民参加を

  • IR見送り衝撃の余波, 特集
  • 2019年12月7日
苫小牧には新たなまちづくり戦略が求められている

  苫小牧市が長年取り組んできたカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の誘致が、鈴木直道知事の見送り判断で突然立ち消えになって約1週間。5日に開会した市議会定例会の一般質問では、複数の市議がIR関連で今後の市の姿勢をただしたが、見送りの影響は大きく、新たな成長戦略を描く難しさが印象付けられた。

   苫小牧市にとって、人口減少と少子高齢化が同時進行する時代への危機感から注目したのがIRだった。働き手の世代が減って税収の落ち込みが見込まれる一方、老朽化した市民会館や総合体育館、市営住宅や上下水道、橋などの施設・インフラの更新は目白押し。これまでの行政サービスを維持するだけでも困難な現実が迫ってきていた。だからこそ、大規模な投資と税収が期待できる起爆剤として当てにされた。

   市が掲げる国際リゾート構想は新千歳空港に近接する植苗地区を候補地としたIRが中核の位置付け。その誘致は先送りが決まったが、岩倉博文市長は答弁で同構想の継続を表明し、「(新千歳空港と苫小牧港の)ダブルポートの優位性を生かしたまちづくりの実現に向け、チャレンジを続けたい」と意欲を示した。

   同構想には、IR候補地の隣接地で計画されている民間投資会社の高級リゾート建設が含まれている。市にとってはIRに並ぶ重要な存在だが、同社は道のIR誘致先送りを受けて期間延長を表明。市の成長戦略は練り直しが避けられない情勢だ。

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   「人口減少時代では経済活性化のため、市全体で何かにチャレンジする姿勢が欠かせない」―。苫小牧駅前通商店街振興組合の秋山集一理事長は市がIR誘致に挑戦した姿勢に一定の理解を示す。その中で「私たちはどういうまちをつくっていくのか」と地域全体を見詰め、「IRに反対した人も含め、これからのまちづくりは市民の大きな課題だ」と呼び掛ける。

   IRをきっかけに賛成派、反対派双方の市民が団体を立ち上げ、まちづくりを議論する機会も広がった。市民が直接、IR賛否の意思表示をしようと住民投票の実現に動いた「IR苫小牧の住民投票をめざす会」は知事判断を受け、3日で解散したが、主体的に動いたメンバーは「とまこまちトーク」と称し、まちづくりの学習会を今後も定期的に開催する予定だ。

   めざす会の共同代表だった市内在住の杉本一さん=団体職員=は「まちの今後について多くの意見を聞くことができ、活動を通して得るものが大きかった」と手応えを語る。今後の学習会も「市財政や中心街活性化などをテーマにしたい」と意欲を見せた。

   地方自治に詳しい札幌大学の浅野一弘教授は「IRで賛否が分かれても、まちをよくしたい思いは一緒のはず。意見の違いを整理し、共通点を見いだすことで新しい発見があるかもしれない」と指摘する。また、今後のまちづくりで外国人や障害者、学生など幅広い立場の人が意見を言える場を提案。「近隣のまちや姉妹都市ともスクラムを組み、知恵を出し合う努力が必要」と話した。

   歴史を振り返ると、苫小牧市は製紙工場が進出し、世界初の本格的な掘り込み式港湾を造り、電力、石油精製、自動車などものづくり産業の集積で発展してきた。先行きに不透明感が漂う中、次の世代にどんなまちを残せるのか。重たい問いは残されたままだ。

  (報道部 河村俊之、伊藤真史、室谷実)

  (おわり)

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