「まさか誘致を見送るとは」。鈴木直道知事が11月29日の道議会でカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の誘致見送りを表明した言葉に、苫小牧統合型リゾート推進協議会の藤田博章会長は驚きを隠さなかった。
4月の知事選では自民党の支持母体である北海道商工会議所連合会など道内経済4団体が全面的に応援し、IR誘致を要請してきたものの、最後まで態度を明らかにしなかった鈴木知事。道内経済界はどうにかして背中を押そうと、この数カ月であの手この手を繰り出してきた。
苫小牧商工会議所は9月26日に開かれた自民党道9区支部の移動政調会で、国会議員や道議、苫小牧市議に「本道の経済活性化と観光振興にIRが欠かせない」と主張。10月2日には岩倉博文苫小牧市長と共に上京し、IR議員連盟の国会議員に要望書を渡した。
道内経済4団体は同21日に早期の誘致表明を訴える緊急共同宣言を発表。11月5日にはこの4団体に北海道商工会連合会などが加わった8団体の連名で、道議会の最大会派である自民党・道民会議に要望書を提出し、誘致を迫った。
振り返れば苫小牧商工会議所は2008年に苫小牧カジノ・リゾート研究会を立ち上げ、16年には同協議会を設立して要望活動を行うなど、10年以上もIR誘致の旗振り役を務めてきた。高橋はるみ知事時代から続けてきた訴えは、今年1月の道のIR有識者懇談会で苫小牧市が優先候補地に選ばれるという一定の成果をもたらしている。
そんな手応えをつかむ中、4月には鈴木新知事が誕生。藤田会長が面会を重ねる中では「良いですね、良いですね」とIR誘致に相づちを打つ姿ばかりだったが、一転して見送りの判断。「IRそのものの議論はなおざりとなり、道議会の政争の具にされた。道庁内でも誘致に向けて前向きな気概を感じられなかった」と藤田会長は憤りの思いをぶつける。
なぜ、経済界はそこまでIR誘致にこだわったか―。苫小牧市の試算では年間訪問客数は最大838万人、年間売上1600億円、年間25億~30億円の税収を見積もり、雇用者数は5000~1万人に上るからだ。
白老町の民族共生象徴空間(ウポポイ)や北広島市の日本ハムファイターズのボールパークなど道内の文化・観光施設と集客の相乗効果に加え、訪日外国人観光客の増加に伴う空港やJRの整備促進など、北海道経済の起爆剤として大きな期待ができる。そんな背景を踏まえ、「IRに代わる北海道の経済活性化策はない」と苫小牧商工会議所の宮本知治会頭は断言する。
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苫小牧統合型リゾート推進協議会の参加企業は現在194社。発足当初から見ると4年で4倍の規模になった。それだけIRに期待する地元企業が増えてきたとも言える。今年11月には30人規模でIRによる経済活性化に成功したシンガポールを視察。さらに各会員から意見を募り、自然共生型IRのイメージ像の構築も進めていた。石森亮運営委員長は「新千歳空港から近い苫小牧の森は自然の財産。そのまま放置するのではなく、保全しながらみんなが楽しめるIRを整備できないか」と語る。
鈴木知事は誘致候補地である植苗地区の自然環境問題がクリアできれば区域認定申請にチャレンジしたいと意思表明した。同協議会も誘致活動は継続していく構えだ。石森運営委員長は「北海道経済のために鈴木知事は逃げないで議論を深めてほしい」と訴えている。
(報道部 伊藤真史)