(2)無念の苫小牧市 読めなかった道の考え、岩倉市長「やれることやった」

  • IR見送り衝撃の余波, 特集
  • 2019年12月5日
市議会定例会でIRの質疑に答弁する岩倉市長(前列左)=12月5日午前11時半ごろ、市議会本会議場

  「ただただ残念だ」。苫小牧市の岩倉博文市長は5日朝、再び無念さを口にした。

   カジノを含む統合型リゾート施設(IR)をめぐり、鈴木直道知事が2021年7月までとされる国への区域認定申請を見送る方針を明らかにしたのは11月29日。岩倉市長は当日の朝まで、知事がどのように表現するか、知らされないままだった。表明後の午後0時半すぎ、市役所で会見した岩倉市長は「非常に残念だし、どうしてかな、という思い」と肩を落とした。

   なぜ、苫小牧市は道の判断を読み間違えたのか―。市幹部も「正直なところ、道の考えが分からない」と本音を漏らす。市としては、高橋はるみ前知事時代から道と意思疎通を図り、IR誘致を目指してきたつもりだった。

   岩倉市長は14年度から市政方針でIR誘致に言及を始め、同年度にIR関連事業費を初めて予算化。17年度には約4500万円をかけてIR事業者への意向調査を進め、新千歳空港に近い植苗地区を拠点にIRを含む国際リゾート構想を18年6月に公表した。

   道庁で国際観光などを担う経済部観光局には16年度から市職員を派遣してきた。「道とは課題を共有し、特に今年は話し合いの機会は増えていた」と強調する。IR整備法で、国への認定申請権を持つのは都道府県と政令指定都市に限られる。「道民目線で判断する」と知事の方針が定まらず、誘致への環境が整わない間も「道の不足部分を市がカバーしてきたつもりだ」と市幹部は言う。

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   今年に入って全国のIR誘致レースが本格化し、道に早期の誘致表明を迫る経済界の動きも活発になった。苫小牧市は異例と言える市議会臨時会を10月28日に開く。国際リゾート構想の候補予定地に係る環境影響調査費約1800万円だけを追加する補正予算案を提案し、IR誘致推進の決議案も全会一致の慣例を覆してまで多数決で可決させた。

   決議をめぐっては、知事が誘致に名乗りを上げるお膳立てとして、道が苫小牧市に求めたとささやかれた。道、市とも打診を否定するが、「申請権がない苫小牧市としては、やれることはやってきたつもりだ」という岩倉市長の言葉が、道への「献身度」を物語る。

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   しかし、最終盤で植苗地区の環境問題が浮上し、雲行きが一転する。同地区の環境保全は、市も重要課題と認識していた。道条例で環境影響評価(アセスメント)を義務付ける開発面積の条件は50ヘクタール以上。市の構想では面積をそれ未満に抑えつつ、独自に地権者などから動植物の調査データの提供を受け、専門機関の分析を加えて対処する考えだった。市議会で補正予算案が可決され、実際に作業に着手したばかりだった。

   鈴木知事は、希少動植物が生息する可能性から環境影響評価の必要性を挙げ、「限られた期間で、環境への適切な配慮を行うことは不可能」と申請を見送る理由を説明した。市の幹部は「あれだけの土地だから、希少動物がいるのは前提の話。その影響を抑える作業を進めていたはずなのに」と驚きを隠さない。

   誘致推進決議に賛成した市議は「岩倉市長は誘致への意欲を早くから明言していたが、道の方は終始、曖昧だった。結局はトップの覚悟の問題だ」と言い放った。「どうしてあのような判断になったのか。(再挑戦を含む今後の対応は)鈴木知事の真意を確認してから決めたい」。岩倉市長は言葉少なに語った。

  (報道部 河村俊之)

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