(1)迷走した道と道議会 知事と自民会派「主体性」示せず、環境問題が追い打ち

  • IR見送り衝撃の余波, 特集
  • 2019年12月4日
「誘致見送り」を表明した定例道議会本会議を終え、議場を後にする鈴木知事=11月29日午後6時10分ごろ
「誘致見送り」を表明した定例道議会本会議を終え、議場を後にする鈴木知事=11月29日午後6時10分ごろ

  10月14日。鈴木直道知事が札幌市中央区の公邸から、近くのマンションに引っ越した日だった。苫小牧市の岩倉博文市長の携帯電話が鳴った。「私も自民党道連の推薦を受け、政策協定を結んで当選した候補です…」「誘致に立候補するだけでなく、三つ(全国から3カ所認定)の中に入るのが重要です…」

   知事はこう話したという。岩倉市長は「知事は誘致に踏み切る」と理解した。カジノを含む統合型リゾート施設(IR)関連の補正予算案提出のため、10月28日の臨時市議会の招集を決意した。1本の電話が、その後1カ月余り続く「迷走劇」のイントロダクション(序奏)となった。

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   紛糾していた。道議会の最大与党、自民党・道民会議(53人)の全議員で構成するIR検討調査会の全体会議。前日に続いて開いた11月26日の会合には、IR担当の土屋俊亮副知事も出席した。前日の全体会議に出席した三瓶(みかめ)徹観光振興監、槇信彦観光局長の誘致への姿勢がトーンダウンしていたのに比べ「副知事の方が(誘致に)前のめりではないか」。反対・慎重派議員からけん制する声も上がった。賛否両論が渦巻き、過半数を握る与党会派として最終的に意見集約を断念し、知事にそのまま伝える異例の措置を取った。

   与党会派が一枚岩になれなかったのは、今春の知事選の候補者選びのしこりがあるとされる。鈴木氏の擁立を目指した党道連執行部側と、当時の国交省北海道局長の和泉晶裕氏を推した勢力が激しい党内抗争を繰り広げた。今回はこの一部和泉派に、新道議会庁舎の会派内喫煙所設置をめぐって意見の対立がある議員もIR反対・慎重派に加わり、複雑な構図となった。

   一方、自民会派から「知事はIRをやりたいのか、そうではないのか。まずは意向をわれわれに示すべきだ」と突き付けられた鈴木知事は「IRのプロセスにはリスクがある。議会の協力なしでは前に進んでいけない」と曖昧な姿勢に終始。知事と最大与党との間で「主体性」という球の投げ合いが、最後まで続いた。そこには道民世論を二分する難題に、道も議会も「責任を回避したい」との思惑が透けて見えた。

   さらに26日開会の第4回定例道議会を前に、一部テレビが、優先候補地・苫小牧市植苗地区に猛禽(もうきん)類などの希少動植物が存在する、と報道した。土壇場に来て、環境影響評価(アセスメント)に最低2年はかかり、誘致を目指す自治体の区域認定申請期限(2021年1~7月)に間に合わないことも判明。知事の政治判断もぐらつき始め、誘致断念の流れが一気に加速した。

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   27日夜の道庁副知事室。土屋副知事と、IR検討調査会の遠藤連会長、田中芳憲幹事長、自民会派の吉川隆雅幹事長の3人が向き合っていた。土屋副知事は環境アセスが間に合わず、誘致への状況は極めて厳しくなったことを伝え、自民側は知事の最終決断を改めて求めた。側近筋によると、知事は最後の政治判断を前にして、関係が深く、IRの旗振り役でもある菅義偉官房長官にも相談したとされる。

   態度表明前日の28日深夜、知事は自民会派にこう伝えた。「今回の誘致申請は見送ります」―。ただ、支持団体で誘致を強く要望していた道経連など道内経済8団体に配慮し、「次回の誘致には挑戦したい」とIR整備法で認定から7年後に設置箇所数を再検討するとしている次の誘致レースに参戦する意欲を示すのが、精いっぱいだった。

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   IRをめぐっては全国8地域が誘致を「予定または検討」しているが、手を挙げれば有力候補とされていた北海道が早々と脱落。自民中堅道議の一人はこう分析する。「若い知事のリーダーシップに疑問符が付いた。3人の副知事も経験が浅い。何よりも道庁の部局間が意思統一を図れず、一気に楽な方に流れた」

   29日のIR誘致見送りの表明後、再挑戦をめぐる道議会の一般質問は淡々と続いた。約10年後とみられる次回申請の現実性が乏しいためだ。閣僚経験のある国会議員は、党道連幹部にこうつぶやいたという。「IRは1巡目でほぼ終わり。2巡はないよ…」

     (札幌支社・広江渡)

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   道民世論を二分し、大揺れに揺れたIR。誘致見送りを決断した鈴木知事の背景に何があったのか。波紋を広げる道議会、道庁、優先候補地・苫小牧市、経済界の動きを追った。(4回連載)

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