(中)市民に根強い懸念  環境変化に神経とがらせ、 反対署名に2万筆

  • IR迫る判断, 特集
  • 2019年11月20日
IR誘致反対を訴える市民活動団体の関係者
IR誘致反対を訴える市民活動団体の関係者

  「カジノで北海道のイメージが悪くなる」「治安や教育環境の悪化も心配」―。カジノを含む統合型リゾート施設(IR)に対し、抵抗感を示す苫小牧市民は多い。誘致に前向きな市の姿勢に反し、2014年に市民活動団体「カジノ(賭博場)誘致に反対する苫小牧市民の会」が発足。市に出した誘致反対の署名は10月までに計3回、市内外から延べ約2万筆に達する。

   IRはホテルや商業施設、会議場などの複合施設。推進派は観光や経済の起爆剤効果に期待するが、反対する市民の間では「IRイコールカジノ」「子どもや孫に賭博場を残さないで」など根強い懸念がある。カジノの「ゲーミング区域」は施設面積の3%を上限とする方針だが、世界各国の成功事例を見渡しても運営面はカジノ収益が大きな柱だからだ。

   国はギャンブル依存症対策として、IR整備法で世界最高水準の規制を設ける方針だが、負の影響や懸念に対する明快な回答を示しきれないまま。10月28日の市議会臨時会では議員が誘致推進の決議案を提案し、賛成多数で可決したものの「依存症で苦しむ者がいないよう具体的な対策を示すべき」と注文を付けた。

   同臨時会では、候補予定地を含む植苗地区の環境影響調査費を盛り込んだ一般会計補正予算案も可決されたが、自然環境の保全や保持に努めてきた市民活動団体は成り行きを注視。国指定鳥獣保護区、ラムサール条約登録湿地として、国際的な水鳥の生息地に認定されるウトナイ湖の上流部とあって神経をとがらせる。

   ゆうふつ原野自然情報センターを主宰する村井雅之さん(60)は「ウトナイ湖は3本の流入河川と伏流水などで維持されている」とした上で、「過去の周辺開発でも湖への流量低下や土砂流入、保水能力の低下があった」と指摘。「ラムサール条約で求められている環境管理計画を作成し、核となるウトナイ湖と流域の保全を明確にすべき。環境変化を知るモニタリング調査の継続も必要」と提言する。

   登別市のヒグマ学習センター代表、前田菜穂子さん(71)は1990年代後半のヒグマ「トラジロウ」の追跡調査を一例に、「ヒグマの生息地は広範囲。『距離』が縮まれば人とヒグマが接触する頻度も高まる」と懸念する。とりわけウトナイ湖周辺は「ヒグマの遺伝子の交差点として重要な位置」と持論を展開し、環境保全の重要性を訴える。

   市民グループ「沼辺の会」は4月から月1回ペースで、ウトナイ湖周辺の自然環境や生態系を茶話会形式で学ぶ場を設けている。主宰する菊地綾子さん(55)は「原風景に近い自然が残され、水、林、砂地など多様な地形、適応した動植物がある。渡り鳥の飛来地であり、四季折々の風景が楽しめる」と魅力を強調しつつ、「知らないことは多いし、学びたいことがたくさんある」。賛否以前に理解を深める場の重要性を示唆する。

  (報道部 金子勝俊、半澤孝平)

   苫小牧市が示す最適地区は空港に近い植苗地区。北側がIR候補予定地で、南側には民間事業者のリゾート施設整備計画地が隣接している。大規模開発で自然に影響する懸念があるため、市は今年度、対象地区の地権者から提供された環境調査データを第三者機関で分析し、今後の環境影響の検証に活用する。

過去30日間の紙面が閲覧可能です。