(上)誘致に挑む苫小牧市,未来の税収増へ責任かけ

  • IR迫る判断, 特集
  • 2019年11月19日
IRの経済効果試算

  「費やした税金を無駄にした場合には、わたしの責任において処置をしたい」―。10月28日の苫小牧市議会臨時会。カジノを含む統合型リゾート施設(IR)の誘致などに失敗した場合の対応を市議に問われ、岩倉博文市長はこう答えた。トップの責任を改めて認め、自らの進退をにおわす発言までした。

   苫小牧市がIRの関連事業費を初めて予算化したのは2014年度。今回の臨時会では、IRを含む国際リゾート構想の候補予定地に係る環境影響調査費として約1800万円の19年度一般会計補正予算案が可決され、市がこれまでIR関連に投じた総額は8000万円に上る。

   14年度は約400万円を計上し、IR誘致の可能性を探る目的で民間事業者に調査を委託。岩倉市長がシンガポールのIRを視察するなど調査結果は報告書としてまとめられ、ホームページで公開している。

   17年度は16年12月のIR推進法成立を受け、IRを中核とした国際リゾート構想の検討を本格化。庁内に国際リゾート戦略室を新設し、約4500万円の予算でIR事業者への意向調査や海外視察、ギャンブル依存症などの課題を整理し、18年6月に苫小牧国際リゾート構想を策定した。18年度は約600万円を同戦略室の通常経費で計上。19年度も当初予算で約700万円を盛っている。

   IRを誘致する場合、国への認定申請は法律で都道府県または政令都市と定められている。北海道は鈴木直道知事が年内に判断する意向を示したが、現時点ではまだ態度を保留中。道の判断が定まらない中、苫小牧市がIR関連の事業を先行していることに市民から批判の声もある。

   一方で、岩倉市長は過去の選挙でIR推進を公約に掲げて当選。無投票だった昨年の4期目も「IRをはじめとする国際リゾート構想を進める」と訴えており、その支持を得て現職を務めているという自負がある。だが、市民はカジノの悪影響や環境破壊などの懸念から賛否が割れている。それでも岩倉市長がIRにこだわるのは、人口減少への危機感があるからだ。

   苫小牧市の総人口は13年末の17万4469人をピークに、翌年から5年連続で前年割れが続く。直近の19年10月末現在は17万1272人で回復の道筋は見えない。人口減による税収減と市民サービスの後退、さらなる人口流出―。そんな悪循環も想定される。

   市の国際リゾート構想ではIR誘致による大幅な税収増を前提に、子育て支援やまちづくりなど市民サービスの拡充、新たな雇用創出など明るい未来像が描かれている。ただ、そこにあるのはあくまでも試算に基づく内容。IRが本当に新たな成長戦略になり得るかはどうかは、まだ不透明だ。

  (報道部・河村俊之)

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   IR誘致の是非をめぐり、北海道の判断に注目が集まる。道内での優先候補地とされる苫小牧市の動向を軸にIRについて考える。全3回。

   IRは「Integrated Resort」の略で、カジノやエンターテインメント施設、国際会議場やホテル、ショッピング観光などを統合したリゾート施設を指す。苫小牧国際リゾート構想の試算では、開業時想定投資額は2200億~3000億円。売上高は年1200億~1600億円で、カジノ収益割合は6割程度。市の税収は約25億~30億円の見込み。さらにカジノ納付金と入場料収入の一部も加わる。

  10月の苫小牧市議会臨時会で、国際リゾート構想の候補予定地に係る環境影響調査費の質疑で答弁する岩倉市長(前列左)

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