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  • ニュース, 夕刊時評
  • 2019年11月7日

  記者が小学生だった時の事。クラブ活動で先生が「これはどうした!」と1人の少女の手を取り上げた。驚いて見ると、いつも優しい上級生の手の甲に、たばこの火を押し付けられたと分かる丸いやけどの跡が幾つもあった。「見ないで!」と言うように慌てて手を隠そうとした、切なげな少女の顔が忘れられない。

   多くの子どもが虐待で命を奪われてきた。生前、親に「ゆるしてください」、学校の先生に「お父さんにぼう力を受けています」と書いて訴えた子もいる。親にも愛されない自分を自覚したい子はいない。まして友達や先生に知られたいはずがない。それでも生きようとしたから書いた、涙の文字まで踏みにじられた。

   虐待の疑いがある子の情報を入力すると重篤度や再発率予測を示すアプリが開発され、実証実験されている。過去の乳児虐待事例を分析し、指針をつくる研究も進んでいる。経験の浅い児童相談所の所員や看護師でも迷わず虐待に対応できるようにするためで、いずれも人工知能を活用している。

   家庭環境が多様化した現代。子どもを守るための人材を確保できても、家の中の状況を誤りなく判断し、適切に対応することは難しくなっている。人間の力を補ってくれるものがあるなら、積極的に活用してほしい。これ以上、柔らかい心が悲しみで染まり、命が奪われないように。11月は児童虐待防止推進月間。(林)

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