ピアノとバイオリンのデュオコンサートが5年前の11月に千歳市で開かれた際、取材した。日本人ピアニストとハンガリー人バイオリニストの共演。高質の音色がホールに響き渡った。
長く交流する両人を招いた千歳在住の音楽家に話を聞いて記事を書くため、下のお名前をうかがった。その人は「『りょうこ』。量子力学の『りょうし』と同じ字よ」と言い、ほほほと笑う。お茶目と感じ、記者もあははと笑った。札幌交響楽団設立の1961年から女性団員第1号で弦楽器奏者だった神奈川県出身の山崎量子さん。「テルマエ・ロマエ」作者で漫画家ヤマザキマリさんの母上だ。
古代ローマ人の浴場建築家が現代日本に時空旅行して大まじめなカルチャーショック反応を繰り返し、物語が展開する「テルマエ―」。西欧史に深い造詣を持つ作者ヤマザキさんは千歳育ち。量子さんは奏者を務めつつ女手一つで姉妹を育て、長女ヤマザキさんを14歳で欧州単身旅行、17歳からは油絵と美術史を学ぶイタリア留学に送った。恐らくは勇気をもって。
ヤマザキさん近刊「ヴィオラ母さん―私を育てた破天荒な母・リョウコ」(文芸春秋、2019年)を読了。70~80年代、千歳暮らしの逸話がエッセーと漫画で克明につづられている。ギャグ調に笑わされ、時にしんみりとさせられた。「小さい人」2人と大人の真っ正直な生活記。読後の心に味わい深い母親賛歌が響いてきた。(谷)