苫小牧市のネピアアイスアリーナ=若草町=には今シーズンのスケートリンクで整氷車「ザンボ」ドライバーの職務に就く女性職員が2人いる。蔦久美恵さん(59)と藤原瞳さん(45)。以前の担当者は男性ばかりだったが、4年前から職場内で女性運転者の養成を進め、日々行われている作業で活躍している。
「ザンボ」と呼ばれる整氷車の愛称は製造元の米国ザンボニー社の社名に由来する。小型ダンプカー大の車両で整氷作業ではリンクの氷表面を1ミリ以下の単位で削り、湯をかけて表面を滑らかにする。操縦には技術と経験が要求される。
同アリーナを運営する苫小牧市スポーツ協会は2020年からザンボの女性ドラーバー養成に踏み出した。蔦さんがこれに応募し、ネピア最初の女性整氷車ドライバーの先駆けとなった。同協会主幹でザンボのベテランドライバー武川諭さん(55)が中心となって指導に当たった。
武川さんは同施設受付職員だった藤原さんにも22年に「ザンボのドライバーとして働かないですか」と提案。20代当時から服飾店などで接客中心の仕事を続けてきた藤原さんは当初、「自動車運転免許を持たない私にできるわけがない」と思ったというが、悩んだ末に「チャレンジしてみよう」と一念発起した。
張り切った藤原さんはザンボ操縦に向けて、自動車運転免許をわずか1カ月半で取得した。だが、整氷の仕事に就いてから間もなく、リンクで尻もちをつき骨折した。整氷車の操縦は通常の車とは逆の左ハンドルで行い、運転席は車高が高く車両感覚をつかみにくい―といった試練を経験し、悩んだこともあった。
「自分もこの仕事を始めたころは何もできなかった」と2年先行してザンボに乗ってきた蔦さんは落ち込んでいた藤原さんを激励した。藤原さんは「蔦さんはてきぱきと仕事をこなし、力仕事でも男性スタッフにひけをとらない『頼れる存在』」と尊敬する。「真面目に淡々と仕事をこなす蔦さんに性格の明るい藤原さんが加わることで現場を活性化させたい面もあった」と武川さん。
同アリーナで女性2人が整氷作業に携わるようになってから重い荷物の運搬には機械式リフトを導入するなど、男女を問わず働きやすい職場づくりを推進。武川さんは「こうした取り組みは作業中全体の事故軽減にも役立っている」と話す。
ザンボ運転はリンク表面の状態を「読む」ことができるまでには3年以上かかるといわれ、それに対応して氷を整える細かなテクニックが枝葉で広がる。「先輩方の技術にはぜんぜん達していない」と言う2人だが、いつかはアイスホッケーアジアリーグといった大イベント時の整氷を担うのがそろっての夢だ。「あと10年はかかるかもしれませんけど」と藤原さんは笑う。