本展への参加に当たり、坂東史樹が苫小牧港を題材に選んだ背景には、人工の掘り込み港湾という特色ある地形や周辺の構造物、海洋の存在があった。
自身が睡眠時に見る夢を反映させた創作活動をする坂東は、夢や心の中に潜在する無意識の重要性を提示したスイスの精神科医・心理学者ユングの論考を参考にしており、本作でも影響が垣間見られる。
人々が生活を送る「平面的な地表」を心の表層にある日常の「意識」として位置付け、その上方および下方に広がる「空」と「海」を人間の心の深層にある本質的な領域「無意識」として投影している。
模型の制作を進める過程で、光ファイバーのともしびが集約する石油コンビナートの一帯を心臓部のように感じ取った坂東は、やがて港と臨海工業地帯の機構自体を、人間の象徴として考えるようになった。
その地表にともされた無数の光には、海と陸をつなぐ交通の要衝のエネルギーや、人々の心象が投影されている。
上空に設置する円筒型の白布は、日常の騒々しさから離れたひとときに、個人的かつ限定された空間から見上げた際にしか見えない「1人分の空」を暗示し、現代人の孤独を象徴しているようにも映る。
中庭回廊での展示では、模型を間近に見ることが可能になった。俯瞰(ふかん)の視点は、観覧者の想像力を喚起するに違いない。