名せりふ

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  • 2019年10月22日

  イラストレーターの和田誠さんが亡くなった。たばこのパッケージのデザイン、週刊誌の表紙、本の装丁など多方面で活躍した。エンターテインメントの世界にも造詣の深く、音楽や映画にまつわるエッセーも多い。若い頃、著作を探しては買い求めた。中でも、古い映画満載の「お楽しみはこれからだ」のシリーズが好きで、何度も読み返した。

   和田さんが、名せりふの数々を紹介しながら映画への思いを語る全7巻のシリーズ。本のタイトルは、”世界初”のトーキー映画とされる「ジャズ・シンガー」で主演を務めたアル・ジョルスンの半生を描いたミュージカル「ジョルスン物語」(1946年、米)に由来する。映画の中に「You ain’t heard nothin’ yet!」というせりふがある。直訳すると「あなたがたは、まだ何も聞いていない」となるが、字幕では「お楽しみはこれからだ」と意訳されていた―ということが、第1巻の最初で紹介されていたと思うのだが…。確かめようと納戸を探したが、本は7冊のうちの3冊しか残っておらず、肝心の1巻がなかった。

   ただ、4巻の冒頭にも「お楽しみは~」と訳したのは字幕翻訳家の高瀬鎮夫さんであり、この翻訳は、和田さんにとって「中学時代から入れ込んでいた宝物だった」との文章があった。3冊をゆっくり読み返した。名せりふも、シンプルな線でスーッと描いた似顔絵イラストも懐かしかった。(松)

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