敬称

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  • 2019年10月5日

  苫小牧に住んで、初めて実業団のアイスホッケーの試合を見たときに驚いたのは、声援を送る子どもたちが、選手の名前の末尾に敬称を付けることだ。

   当時は札幌冬季五輪の前後。欧米のチームとの対戦も多く、テレビ中継が多かった。地元の王子、岩倉両チームの選手は、国内各地や世界の銀盤を駆ける大スターでもある。運動選手は敬称抜きで報道され、声を掛けられるものだとばかり思っていたが、苫小牧では「○○さ~ん」と敬称付き。新鮮だった。街中でも会うことのある選手たちは、氷都の子どもたちの尊敬の対象だ。呼び捨てなど、とんでもないことなのだ。当時の名選手の名前は、甲高い子どもの歓声付きで、記憶に残っている。

   そんな昔を思い出したのは先日のプロ野球、今季セリーグ最終戦をテレビ観戦していて。タイガースが奇跡の6連勝でクライマックスシリーズ進出を決めた甲子園の客席風景。小さな横断幕を手にした小学生ぐらいの子ども3人が映し出された。広げた幕には「鳥谷さん」の文字。今季で縦じまのユニホームを脱ぐ大好きな選手への敬意と感謝の交じった4文字に、「どうせ、また―」とはすに構えていた自分を反省させられた。

   ラグビーのワールドカップが盛り上がっている。走れ、押せ、つぶせの絶叫が茶の間にも広がる。今夜も競技者たちが多くのドラマを繰り広げるに違いない。敬意も忘れずに声援を送りたい。(水)

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