胆振東部地震から1年以上が経過したが、被災した厚真、安平、むかわの各町の寺や神社は再建に公的支援が受けられない状況が続いている。全国では被災した神社などが地域コミュニティー拠点として機能している役割が認められ、補助金が交付された事例もあるが、3町や道は憲法20条の政教分離の原則から支援には慎重な姿勢。宗教法人本部から支援を受けた被災寺社も一部にはあるが、ほとんどは自己資金と檀家(だんか)などの寄付金で建物の立て直しや道具の修繕を進めている。
むかわ町の永安寺は地震によって建物に傾斜や柱に亀裂が入り、半壊状態になった。本堂や諸堂の仏像も約8割が破損。本堂の周辺をブルーシートで囲み、建て替えた納骨堂の一部を使って法事を執り行っているという。石﨑紀彦住職は「再建には約3億8000万円掛かる見通し。仏像の修繕も必要だが、2020年の秋までには本堂を建て直したい」と語った。
厚真町の厚真神社は社殿や社務所が全壊し、被害額は概算で約1億1000万円に上る。9月から神社の復旧復興を目指す奉賛会を立ち上げ、町内から支援を求めている。黒沢寿紀宮司は「町内外から支援の声を頂いている。建設費以外の費用も必要だが、何とか再建させたい」と言う。
安平町の安立寺は本堂が半壊の判定を受け、基礎から直すには5000万円以上の費用が必要という。納骨堂や仏具の修理も加えると費用はさらに増える見通しで、佐々木学嗣住職は「できる範囲で復旧を進めていくしかない」と厳しい表情で話した。
胆振総合振興局によると、東胆振3町から届け出のある宗教法人は9月20日現在で寺23カ所、神社8カ所、教会1カ所、その他6カ所。いずれも建物などが被災している。
道復興支援室は「政教分離の原則を踏まえつつ3町と連携した対応が必要」と説明。厚真、安平、むかわの3町も現状に理解を示すが、「道と調整が必要」との立場にとどまっている。
政教分離の原則について、3町の寺社関係者からは宗教法人の立場上「仕方ない部分ある」との意見も出ているが、地域の会合や催事利用などコミュニティー機能の面から「甚大な災害に対する特例措置があってもいいのでは」という声も。ある寺社関係者は「私たちも地域に住んでいる存在。(救済策を)考えてほしい」と訴えている。
全国の事例をみると、熊本県では16年の熊本地震後、地域コミュニティー施設等再建支援事業の名目で、長年地域で利用してきた施設の復旧に上限1000万円の補助を出した。18年度までに1040件が利用し、約8億6000万円を交付した。同県教育委員会文化課によると、交付した施設の中には宗教法人の施設も含まれているといい、柔軟な対応で地域復旧を支援する手法を挙げている。