昆虫

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  • 2019年10月4日

  トンボ。秋になって思い出すことが二つ。一つは記者の仕事に就いたばかりのことだから40年近く昔のこと。こうべを垂れる稲穂の先にトンボが止まっている写真を見せてもらった。収穫の秋を迎え、構図を頭に描きながら何回か田んぼに出掛け、トンボを探してみたが、その程度で撮れるような写真ではなかった。

   もう一つは小学生の頃に見た光景。こちらは50年以上も昔のことになる。友達と夕方までたっぷり遊んだ帰りだったかもしれない。西日の当たる校舎の壁にトンボがびっしりと並び、へばり付くように止まっていた。そんな光景、今も見ることができるだろうか。先日、信号待ちしていると、つがいになったトンボが飛んでいた。でも、数は随分、少なかった。

   トンボに限ったことではない。家に入り込んでくるハエや蚊が減ったり、玄関灯にまとわりつくガが減ったりしたのはいいとして、ここ何年か、目にする昆虫がかなり少なくなった気がしている。現在の場所に引っ越してきた25年ほど前には時折、近所でアゲハチョウを見掛けたけれど、今年はモンシロチョウすら見ていない。空き地だった場所に次々と家が建ち、近くに草むらがなくなったからだろうか、日が沈んでもリン、リンリン、ジジジジジーという音が聞こえてこない。秋の夜長、虫の声に耳を傾けたくても、それが難しくなってきた。大都会に住んでいるわけでもないのに―。(松)

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