2020年4月の民族共生象徴空間(ウポポイ)開設に合わせ、白老町がJR白老駅北側に設ける「白老駅北観光商業ゾーン」への民間活力導入が暗礁に乗り上げている。飲食・物販分野の民活区域に参入する事業者が決まらず、加えて宿泊分野の区域にホテル建設を予定していた札幌の不動産投資会社が、自社の経営的事情から計画を白紙に戻すことに。ゾーンの全体構成が整わない状況でウポポイ開業を迎えることになりそうで、町は想定外の事態に困り果てている。
■宙に浮く民活導入区域
同町若草町の駅北広場に設ける駅北観光商業ゾーンは、町のウポポイ周辺整備事業の主軸。全体面積1・5ヘクタールのうち1ヘクタールを行政整備区域として町が整備し、白老観光協会を指定管理者にした観光インフォメーションセンターを開設する。0・5ヘクタールについては民間活力導入区域として「宿泊」「飲食」「物販」用の区画を用意し、今年2~3月に事業者を公募した。
宿泊分野については札幌の不動産投資会社パーフェクトパートナー(末岡由紀社長)が応募。木造2階建て延べ床面積約1000平方メートルで、客室数20室のホテルの建設を提案し、5月に町と事業協定を締結した。協定締結から6カ月以内に事業用定期借地権設定契約を町と結び、着工、来年春オープンの手はずとなっていたが、今月20日に同社が町に協定解除を申し入れた。
事実上の建設計画の取りやめ方針に、同社の末岡社長は本紙の取材に対し「当社のホテル事業全体の見直しや縮小の方向性の中で、白老のホテル建設もいったん白紙に戻すことにした」と説明。資金調達が難しくなったことも背景にあるとみられるが、「当社としては(不動産投資などの)セミナーといった教育分野に力を入れていくことになり、(建設計画を白紙にするのは)事業の選択と集中という経営的観点の結果だ」と話した。
同社と町の今後の協議で正式に破談となれば、宿泊分野の民活導入区域の活用は宙に浮く状況に。「飲食」「物販」用の区域についても、2度にわたり事業者を公募しても反応が鈍く、決まらない状態が続いている。町の肝煎り事業、駅北観光商業ゾーンへの民活導入は極めて厳しい局面を迎えている。
■要件見直しも視野に
町の観光インフォメーションセンターは予定通り来年4月から本格運用を始める予定だが、ウポポイ開業に合わせた駅北観光商業ゾーン全体のオープンはかないそうもない。町は民活区域への参入事業者を再度公募する考えでいるが、「募集要件の見直しなどで参入のハードルを下げることも視野に入れて検討していきたい」と言う。
これまでの要件では、土地(町有地)は借地とし、土地の造成や下水道整備、外構工事、施設の建設の全てを事業者が担う形となっており、地元経済界からも「事業者にとって初期投資が重すぎる」との声が出ているからだ。町商工会の熊谷威二会長はホテル計画の白紙化を受けて「ゾーンはこれからどうなってしまうのか」と懸念し、「事業者が参入しやすいよう要件を緩和することが必要ではないか」と指摘する。
事業者が参入をためらう理由は、それだけではない。アイヌ文化復興拠点のウポポイは単なる娯楽施設とは異なる性格上、国が目標に掲げる年間100万人来場という数字に懐疑的な見方もある中で「ビジネスとして成り立つか」という不安が参入の壁となっている。まずは開業後の観光客の動向を様子見しようとする事業者も多いようだ。
駅北観光商業ゾーンをウポポイとの連携による観光振興拠点に位置付ける町は、「民活導入の方針を変えることはないが、さまざまな角度から再検討していかなければならない」としている。