感謝

  • ニュース, 夕刊時評
  • 2019年9月25日

  店にも街にも、寿命のようなものがあるかもしれない。人の流れはいろんな要素で変わる。一度変わった流れを知恵や工夫で変えるのは難しいことだ。

   転勤で恵庭市に引っ越し、開店間もないイトーヨーカドー恵庭店を利用するようになった。屋上に広い駐車場があった。周辺に未分譲の宅地がたくさんあり、屋上からは遠くまで見渡せた。売り場に降りるエレベーターや階段のすぐ近くに車を止められ、子ども連れには便利だった。そのヨーカドーが29日で閉店する。報道を読んでふと三十数年前を思い出した。

   食料品や衣料品だけでなく、電気製品や呉服の売り場もあった。わが家の大きく重い本箱は、この店で買って以来、転居の時の運搬困難物の最上位であり続けた。

   何度か家族の笑い話になったのは3、4歳だった長男が店内放送の主人公になった時のことだ。親から離れる子ではなかったのにフッと見えなくなった。直後に放送された迷子の服装は長男とまったく同じ。聞かれて答えたらしく姓名まで放送された。おわびして引き取って長男に聞くと「優しいおばさんに声を掛けられ手をつないだ」そうだ。心配した店員さんに保護されたらしい。親切に感謝しながら店のことがもっと好きになって通う回数が増えたと思う。

   長男はもう40代。今は遠くの町で4歳の娘の手を暑苦しいほどきつく握って買い物をしている。ヨーカドー恵庭店の教えだ。(水)

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