突如として出合った生き物を目の前に、優しい気持ちで取ったはずの行動が、時にその命を危険にさらしてしまうことがあります。
10年ほど前の初秋のある日、ウトナイ湖野生鳥獣保護センターに、市民から電話相談がありました。聞くと、当センター近くの国道沿いの歩道で1羽の鳥が歩いており、車通りも多い場所なので保護してほしいという内容でした。しかし、その鳥はけがをしている様子はないため、まずはその場から離れていただきたい旨をお伝えしました。しかしその方は鳥の行く末が心配で、どうしても放ってはいられないとのこと。私はその場へ向かうことにしました。
現場付近に着くと、数十メートル先に1羽のウミウ(カツオドリ目ウ科)と、そのすぐ後ろを付いて歩く電話主を発見しました。ですがその直後、ウミウは歩道から車道に向かって飛び立ってしまったのです。そして、対向から来た自動車に衝突。即死でした。
おそらくこのウミウは、ただ歩いていただけだったのですが、背後から近づく人の存在から逃れようとし結果、命を落としたのです。
この教訓を経て、このような相談を受けた際、明らかなケガをしていない場合に限りますが、野外で飛ばない野鳥に出合っても、後を追ったり、長時間近くで見守ったりする行為は、遠慮いただくようお話ししています。
つい先日も、住宅地で歩いている鳥がいると通報があり、現場に向かうことがありました。この時も、その場にいたのは1羽のウミウでした。案の定けがはなく、近くの川から歩いてきた様子でしたが、すでに数名の方々が集まっており、ウミウは右往左往していました。幸い、無事にウミウを捕獲し、安全な場所へリリースすることができましたが、もう少し、周囲の人が多かったり、人とウミウの距離が縮まっていたりしたら、2次的な事故につながっていたかもしれません。
人々から生まれる優しい気持ちや行動は素晴らしいものではありますが、残念ながら野鳥はそれをくみ取ることはできません。「何もしない」ことが野鳥の安全につながることも、知っていただけたらと思います。
(ウトナイ湖野生鳥獣保護センター・山田智子獣医師)