白老町の西側、虎杖浜地区のポンアヨロから登別漁港にかけての一帯は、アイヌ語地名でも特殊な地域です。前回の「オソロコッ」でも紹介したように、地名が物語やカムイ(神)の伝承などから付けられています。一般的なアイヌ語地名は、そこがどのような場所なのか―を示しています。例えば「クッタルシ=イタドリの多いところ=現虎杖浜」や「ポロナイ=大きい方の川=幌内」などのように付けられます。それに対し、虎杖浜地区一帯は、地名の付けられ方が少し変わっています。
虎杖浜地区のポンアヨロを流れるポンアヨロ川の河口付近右岸に位置する高台には、「カムイミンタラ」と呼ばれる場所があり、ここもカムイの伝承から付けられました。この場所には平地が広がり、周囲の状況と違って、背の高い樹木がほとんど生えていません。
カムイミンタラとは、カムイが「カムイモシリ=神の世界」から「アイヌモシリ=人間の世界」へ降り立ち、盛んに宴を開き、舞を舞って興じる場所と伝えられています。そのため余計な植物が生えておらず、単一の種類で、草丈の短い植物だけが一面に生えていていると言い伝えられています。ポンアヨロのカムイミンタラも、そのような場所でした。
ポンアヨロのカムイミンタラは、江戸時代後期に蝦夷地(北海道)を6度にわたって探索し、詳細な記録を残した松浦武四郎の著『蝦夷日誌』の中にも、「フシコベツ 境杭有るよし 越而 カムヘシツタ 大岩畳重るよし」と記されていて、古くから認識された地名であることがうかがい知れます。
カムイミンタラは、北海道の各地に残された地名です。私が若いころにお世話になった伝承者の方々も、それぞれの地域に残されたカムイミンタラを伝承されておられました。
伝承者のお話では、カムイミンタラはとても美しい場所で、いかにもカムイが舞を舞いそうな地形をしているそうです。白老町にもそのような場所があることは、とてもうれしいことです。
(苫小牧駒沢大学客員教授・岡田路明)
※「アイヌ語地名を歩く」は毎月第1・第3月曜日に掲載します。