「作品と観客の橋渡しが映画館の仕事」―。ミニシアター「シネマトーラス」(苫小牧市本町)の代表を務める堀岡勇さん(72)=白老町在住=はそんな信念の下、興行的に厳しそうだったり、波紋を呼びそうだったりしても社会的意義を見いだして公開に踏み切った作品が幾つもある。
2008年9月に上映したドキュメンタリー映画「靖国 YASUKUNI」も、その一つ。当時、右翼団体などの抗議に遭い、公開を見合わせる劇場が相次ぐ中、道内で真っ先に上映を決め、注目を浴びた。
終戦の日の8月15日に靖国神社に集まる人たちや、かつて境内で作られていた軍刀を再現する刀匠らにスポットを当てた話題作で同館にも抗議の電話が相次いだが、上映初日から観客がどっと押し寄せた。
道外の映画館の上映見合わせのニュースが新聞やテレビで大きく報じられたことが皮肉にも宣伝となり、延べ約900人動員という同館としては異例のヒット作となった。「(問題作か否かは)見た人が判断すればよいこと。選ぶ権利までは奪えない」。そんな思いを改めて強くした。
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1952年、茨城県那珂湊市(現ひたちなか市)生まれ。映画好きが高じ20代の頃から各地で映画制作や自主上映会を手掛け、苫小牧では85年から著名な俳優や映画監督を迎えた映画祭を開催した。応援ムードを背に市民や企業から出資金を募り、98年3月にはシネマトーラスを開館。「実際の戦争は知らないし、身近で体験を語る人もいなかった」が好きな映画が戦争について深く考えるきっかけになった。
長編ドキュメンタリー映画「ひめゆり」を2007年から、2年連続で上映したことも印象深い。太平洋戦争末期の沖縄戦で従軍看護活動に当たった通称「ひめゆり学徒隊」の生存者の証言を基にした力作。生存者が戦場の跡地に赴き、証言する姿を映すシンプルな構成ながら、「生き残った人の生の声に衝撃があった」と振り返る。
テレビ放映やDVD化をしない約束で制作され、鑑賞する機会が限られた作品だけに、柴田昌平監督による舞台あいさつや館内で沖縄戦の写真展示なども企画。反響は大きかった。
戦後80年を迎えるが、国際社会の分断と対立は深まるばかり。戦禍を題材にした作品は毎年、新たに公開されており、これからも映画を通して戦争の悲惨さや平和の尊さを考えてもらう機会をつくりたいと思っている。暗がりの中、1人でじっくり作品と向き合える映画館だから伝えられることがあると信じている。