ある日、診療が終わって宿舎に戻り、インターネットを使ったオンライン会議に参加した。いろいろな地域から出席している人とあいさつを交わす。「寒いですね」とある人が言ったので、「こちらは今年はさほど寒くないんですよ」と答え、会議が始まった。
ひと通り話し合いは終わったので、最初にあいさつした奄美大島(鹿児島県)のドクターに「そちらは何度ですか?」ときくと、「19℃」と示された寒暖計をパソコンのカメラ越しに見せてくれた。「暖房はつけてないので、外も室内もだいたいこのくらい。ちょっと肌寒いかな」。
私もカメラ越しに「マイナス3℃」という外気温が表示された寒暖計を見せる。ほかの出席者から「寒いじゃないですか」という声が上がる。「いやいや、この時期のこの時間、いつもならマイナス10度以下なんですよ。今年はものすごく暖かいんです」と言っても、なかなか納得してもらえない。
奄美大島では19度でも肌寒く、穂別ではマイナス3度でも暖かい。受け取り方によってずいぶん違うな、と笑ってしまった。
いる場所や置かれている状況によって、感じ方がまったく違う。これは気温に限ったことではない。
たとえば、朝の除雪でも体調が良いときはスイスイできるが、ちょっと風邪ぎみで体がしんどいときは「こんな重労働はない」と感じる。診療所でも、地域医療実習に来る20代の研修医は早朝から夕方まで元気いっぱい、「思ってたよりラクですね」などと言っているが、シニアの私は午後になると「へき地医療は大変だな」と息切れしている。
人はどうしても、自分を基準にして考えてしまいがちだ。なかなか「ほかの人は違う感じ方をしているかもしれない」と思えない。そのため「これくらいできるはずでしょ」などと自分の基準を押し付け、それが相手にストレスを与えたり人間関係のトラブルが起きたりすることもある。
19度でも「肌寒い」と感じる奄美大島の人に、「そんなわけはない。ほとんど初夏の気温じゃないですか」と言っても仕方ない。それより「へえ、そんな風に感じるんですね」とその違いを興味深く受け取る方が、ずっと楽しい気持ちになれる。奄美大島のドクターも「穂別ではマイナス3度が暖かい! 日本は広いですね」と笑顔で言ってくれた。
自分と違う感じ方に出合ったら、ラッキーと考えて面白がってみる。今年もそれを忘れずに過ごしたい。
(むかわ町国保穂別診療所副所長、北洋大学客員教授)