想像を超える絶景 杉本(すぎもと) 大志(まさし)

  • ゆのみ, 特集
  • 2024年10月15日

  北海道育ちの私が四国に赴任して驚いたのは、想像をはるかに超える山岳風景があったことです。

   ある日、地図で見つけた「カルスト」の文字に引かれ、遠回りを決意。早朝、ガソリンメーターとにらめっこしながら、狭い山道を3ナンバーのハッチバックではうように進みました。酷道と呼ばれる道は名に違わず、対向車との擦れ違いに冷や汗をかくこと数知れず。しかし、その苦労も吹き飛ぶ光景が待っていました。視界が開けた瞬間、なだらかな丘陵が果てしなく広がり、点在する奇岩群が風景に独特の表情を与えていました。息をのみました。

   「姫鶴平」と記された看板の横には、愛らしい牛のオブジェがあり、そこが酪農地帯であることを物語っていました。風は涼しく、空気は澄み、低地とは比べられないほどの爽快感。遠くの風車がゆっくりと回り、まるで時が止まったかのように静かでした。その光景は、故郷の大地と四国の山々が溶け合い、新たな絶景を生み出しているようでした。

   休憩所では思わぬ発見が。県境で、ここが県境だという「愛媛県」「高知県」と書かれた地面を見つけ、つい童心に帰って反復横跳びをしました。笑いながら、旅の醍醐味(だいごみ)をかみしめていました。

   赤い車体が映える風景は絵はがきのよう。カメラに収めながら、こんな景色が日本にあったのかと驚くばかり。はるかかなたに連なる山々の稜線(りょうせん)は、墨絵のごとく美しく、目に焼き付いて離れません。

   この国には、見たことのない絶景がまだ眠っています。地図の隅に潜む未知の地へ、足を運ぶ価値は十分にあるのではないでしょうか。

  (苫小牧工業高等専門学校准教授)

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