約3年間の岸田政権下で進められてきた「異次元の少子化対策」。3兆円を超える大規模な政策展開も、2023年の合計特殊出生率は1・20と統計史上最低を記録した。苫小牧市でも22年の出生数は959人と1000人台を割り込み、さらに23年は897人まで減って過去最低を更新した。
「子育て環境は年々厳しくなっていると感じる」。小学生の男児2人を育てる市内柳町の女性(50)は険しい表情で語った。障害がある小学5年生の長男の育児に悩み、疲れても気軽に休息や息抜きができない時に、特につらさを感じるという。
「子どもとずっと向き合っていると、親自身も行き詰まってしまう。『親なんだから』と頑張っているけど、心身が壊れてしまったら終わりだという不安もある」と心境を吐露。「助産院で行っているような新生児の親向けの休息の場が、全世代であるといいのに」と訴える。
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国は親の負担軽減を目的に、親の就労の有無や利用目的を問わず、3歳未満の子どもを保育施設に一定時間預けられる「こども誰でも通園制度」を検討中。26年度の本格始動を目指している。
毎週日曜日に市内双葉町で子ども食堂を開くなど、多くの親子と接しているNPO法人木と風の香りの辻川恵美代表(43)は「親は皆いろいろなプレッシャーを感じながら、限界まで頑張っている」と指摘し、同制度に対して「理由に関係なく利用できれば、親たちの助けになるのでは」と話す。
一方で「社会が多様化している中、家庭の在り方も多様になっている。今必要とされているのは、より個別的な支援」ときっぱり。「一律の支援はあくまでも最低限の基盤づくりの段階。歩みを一歩進め、具体的な策を講じるべき段階なのでは」と訴える。
同制度の受け皿となる保育施設の関係者も複雑な心境だ。市内中心部の認可保育園の園長は「困っている親の支えになるという点は理解できるが、制度を受け入れる余力がわれわれには残されていない」と明かす。
保育の受け入れ枠の拡大や少子化の影響で、市内では保育園に入りたくても入れない待機児童は減ったが、保育施設の多くで定員割れが発生。園は定員分の保育士を確保しているが、国からの運営補助金は園児数に応じた支給のため、定員割れが続くと人件費などで赤字になるという。
園長は「この状況が今後も続くと、経営難から存続できない園も出るはず」と見通し、15日公示、27日投開票に決まった衆院選に「票集めのための聞こえのいい子育て支援策ではなく、人を育てるという点に丁寧に目を向けた策を真剣に考えてもらいたい」と望む。