伝説

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  • 2024年8月10日
伝説

  更科源蔵著「アイヌ伝説集」(みやま書房出版)を書棚で見つけ、ゆっくり読み返した。更科氏が全道各地の故老から聞き取ったり、出版物から採集したもので長短約400点の言い伝えや物語が収録されている。温かく時に厳しく、先住民の残したたくさんの物語は、往時の北海道のありようを学び、これからの北海道を考える貴重な資料と言えそうだ。

   北海道北西部の日本海に浮かぶ利尻島など離島の多くが北海道、それも千歳付近から日本海に流れ出し、北上して現在の位置に落ち着いた「山」という伝説があり、驚いた。千歳市の青葉公園の市街地寄りの千歳神社の裏手の山が、大地震や巨大津波の時に千歳川へ流れ出した―という壮大な伝説は市史などに所収されていたが礼文島や焼尻島も、千歳付近から千歳川を下り、馬追山塊の形をゆがめたりしながら石狩湾を漂流して現在の位置に落ち着いたのだという。言い伝えの詳細を確かめる方法はすでにないが、千歳という集落が、北海道のどんな位置を占めていたのかを考えるのは楽しい。

   夏休みが始まり、今日からは連休、そして盆。帰省者には南海トラフ地震や台風5号接近の情報が気に掛かる。五輪終幕の後は穏やかで美しい往時の北海道を静かにしのび過ごしたいものだ。(水)

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