羽だけじゃない 季節によって変わる色

  • 救護室のカルテ, 特集
  • 2024年7月19日
羽だけじゃない 季節によって変わる色

  まずは、写真をご覧ください。2羽とも同じ種の鳥、シメ(スズメ目アトリ科)の写真ですが、両者の体のどこかに、明らかな色の違いがお分かりでしょうか。それは、くちばしの色です。

   鳥類は種によって、夏羽(なつばね)冬羽(ふゆばね)といったように、主に夏と冬で羽色が変化する場合があります。一般的には、鳥類が子育てを行う夏に合わせ、雄が雌への求愛や雄同士の争いに役に立つために、鮮やかな羽色に変わります(逆に、雌の方が鮮やかになる場合もあります)。しかし、これもまた種によりますが、くちばしの色も季節によって変わるものがいます。それが、この写真のシメです。夏のくちばしは濃い鉛色に、冬は淡いピンク色になります。

   シメは体長19センチ。ずんぐりした体形と太いくちばしが特徴的な鳥で、国内では、北海道と本州北部で子育てをし、冬は南方へ移動します。北海道では一部越冬するため、一年を通じ観察されることも。ウトナイ湖野生鳥獣保護センターでも、毎年保護事例がある種です。

   さて、写真のシメに関してですが、右側のシメは今年1月に保護されました。交通事故による翼の外傷が原因で飛翔困難となり、終生飼養として当センターで過ごしていました。そして4月、今度は窓ガラスに衝突した左側のシメが搬入されたのですが、終生飼養のシメのくちばしがまだ冬の色であるのに対し、新患のシメはすでに夏の色をしていました。同時期に、これだけくちばしの色が異なる珍しいタイミングに、記録写真を撮らずにはいられませんでした。

   その後、新患のシメは軽症だったためにすぐにリリースとなりましたが、終生飼養のシメが、どのようにくちばしの色が変化していくのか、観察することにしました。すると、5月上旬ごろから、くちばしの先端や周囲から徐々に色が濃くなり始め、1カ月ほどかけて夏の立派な鉛色になり、その間も貴重な記録を撮り続けることができました。

   本来だったら今ごろ、繁殖期を迎え、次世代に命をつないでいたかもしれない終生飼養のシメ。人の環境下でこうして学びを提供してくれることに改めて感謝しつつ、これからのシメの人生を精いっぱい支えながら、また冬のくちばしの色にかわる様子を記録させてもらえたらと思います。

  (ウトナイ湖野生鳥獣保護センター・山田智子獣医師)

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