蒸し暑く、寝苦しい夜。久しぶりに沢木耕太郎さんの「一瞬の夏」(新潮文庫)を読んだ。元東洋ミドル級王者だったカシアス内藤さん。当時駆け出しのルポライターで、プロモーターとして関わることになる沢木さん。藤猛や海老原博幸、柴田国明、ガッツ石松といった世界チャンピオンを作り出してきた名トレーナーのエディさん。悲運のボクサーのカムバックという一つの目的に向かって疾走する男たちを追う、傑作ノンフィクションだ。一瞬届きそうになる夢。そして挫折が描かれ、ぐいぐい引き込まれた。
真夏を前に全道各地では、今年も聖地・甲子園を目指して高校野球の地区予選がたけなわ。負ければ終わりの一発勝負。それが戦前から1世紀以上にわたり、連綿とファンを引き付ける高校野球の魅力なのかもしれない。高校球児たちの「一瞬の夏」を賭けた激闘が連日、続く。
新聞記者としてこれまで、さまざまなジャンルを取材してきた。沢木さんや山際淳司さんの影響なのか、スポーツ取材は嫌いではない。むしろ喜んで現場に行きたい方だ。聖地・甲子園取材も一度体験でき、あの美しい芝生が忘れられない。駒大苫小牧が全国初制覇したのは2004年。深紅の大優勝旗が初めて津軽海峡を渡って20年目の夏を迎える。 (広)