3 植物工場やウイスキー 食品関連も多様に 地産地消を実践

  • 特集, 苫東の今 未来への展望
  • 2024年6月21日
3 植物工場やウイスキー 食品関連も多様に 地産地消を実践

  苫小牧東部地域には、多様な業態の企業が進出している。その代表が自動車産業だが、それに次いで苫東地域の中で注目されるのが食品関連企業だ。ただ、苫東はもともと石油化学コンビナートなどを整備する重厚長大型産業を想定していた工業用地。「食品関連」への転換には紆余(うよ)曲折の歴史もある。

   1989年。苫東に水産会社の立地計画が浮上し、これが物議を醸した。「どうして水産会社なんだ」。重厚長大型の産業とは似ても似つかぬ業態。当時、組み立て加工関連の企業誘致の動きはあったものの、水産系が立地することに違和感を持つ人もいた。苫東地域は草地や畑を買い取って造成した工業用地。そこで「なぜ、水産や農業をやるのか。目的が違う」との指摘も根強くあった。

   だが、歳月の経過ととも「食」への理解は進んだ。今では草を刈って、それを飼料として活用したり、当面、開発する予定のない土地を農業生産法人がブロッコリーを生産している。株式会社苫東の辻泰弘社長は「遊休地の活用ということでもあり、試験栽培の性格もあった」と話す。

   その延長線上として着目したのが植物工場。中でも「システムが一つのショーケースになる」(辻社長)のが大きなポイントだ。本道は冬期間の対応が課題だが、植物工場は一年中、生産体制を確立できることで克服した。代表例が2法人によるトマトとイチゴの生産だ。

   2014年に出荷を開始したのが、高糖度のトマトやベビーリーフを栽培するJファーム。トマトは激しい競争の中でも非常に甘いことで注目も浴びた。その翌年に出荷を始めたのはイチゴ栽培の苫東ファーム。4ヘクタールの巨大な温室での栽培で通年供給している。まさに「苫東ファームのイチゴ」というブランドを確立。両法人共に最先端の技術を駆使しているのも特徴の一つだ。

   「食」関連では、北海道そば製粉の立地も意義がある。そば製粉最大手である日穀製粉(本社長野)と深川市の農場との合弁事業。日本を代表するそばブランドの「信州そば」を製粉する企業が資本参加し、本道産のソバを使って製粉する。生産は順調で、コンビニの本道のセブンイレブンのそば弁当に使うそば粉を苫東の工場で作っている。「本道産のソバが全道に広がることはすごいことだ」。辻社長は強調する。まさに、地産地消の実践企業が苫東で注目されている。

   北海道そば製粉がその苫東を選んだのは、「生産地と結び、港の出し入れも便利」(辻社長)な点が最大のポイント。陸上交通網の利便性と併せて、物流拠点の優位性がここでも生きた形だ。

   こうした物流面の「食」関連では、苫小牧埠頭が運用する大型冷凍冷蔵庫がある。苫小牧港・東港国際コンテナターミナルに隣接。20年から営業するが、乳製品の輸出やロシアからの水産物など「輸出入両面での需要に対応できる」(辻社長)のが強みだ。

   飲料関係で最も注目されるのが、ベンチャーウイスキーによるウイスキーの生産だ。当初、苫東地域での「飲料関係は諦めていた」。地下水を使うのが難しいためだ。しかし、ウイスキーは上水を使用する。苫小牧市の水は、良質でおいしい水として有名で、これが高く評価された。

   トウモロコシを原料としたグレーンウイスキーの製造で、現在、蒸留所の建設が進んでいる。同社は「たる」にもこだわりを持つ。その素材の一つとして注目される「ミズナラ」は苫東地域にも生育する。将来は苫東産のウイスキーが人気になるかもしれない。夢は広がる。

過去30日間の紙面が閲覧可能です。