夏至が来ると、母は必ず「嫌だねえ。もう冬に向かうんだよ」と言った。これから夏本番を迎えるというのに、夏至を境に日が短くなることを嘆くのだ。家庭用除雪機などない時代。雪の量も今よりはるかに多く、山奥にある実家の雪かきは確かに大変だった。母も自分も朝早くから必死で雪をはねのけた。
だったら冬至に「これから夏に向かう」と思えばいいようなものだが、師走の厳寒期にそんな気持ちの余裕はなく、母が冬至を喜んだことは一度もない。あの言葉が頭から離れないせいで、夏至が来ると自分まで暗い気持ちになる。
今年の夏至は21日。「もうすぐ夏至だよ」。そう話し掛けても、母はもう夏至の意味が分からない。数分前のことは忘れても、昔のこと、いつも言っていたことなら少しは反応があるかと思ったが駄目だった。「何が何だか、さっぱり分からない」と首を左右に振ることだけが意思表示になって半年がたつ。
人生の残りも日に日に短くなっていく。今や100年時代とはいえ、あと数年で手が届く母はもちろん、自分もとうに折り返しを過ぎた。出生率が1・06と東京に次いで低い北海道。大きく広がる未来を手にした子どもたちが、少しでも増える政策を願ってやまない。(吉)