階段

  • ニュース, 夕刊時評
  • 2024年6月12日
階段

  卒業した炭坑の小学校にピアノはなかった。古い足踏み式のオルガンが1台あって、F先生の伴奏に合わせて「ほたるの光」や「仰げば尊し」を大声で歌っていた。生のピアノの音は中学校で初めて聴いた。楽器が大好きで憧れてはいたものの、一度も弾いたことはなかった。

   先日のNHKテレビで「魂のピアニスト逝く フジコ・ヘミング その壮絶な人生」を見た。4月21日に膵臓(すいぞう)がんで亡くなった。93歳だった。ピアノ演奏やクラシック音楽に関する知識などほとんどないのだが、フジコさんの意見や演奏は実に分かりやすかった。最近はリストの「ラ・カンパネラ」の演奏を聴く機会が多かった。中学生の頃から我流ギターの世界に迷い込み、ビートルズだ失恋だと騒いでいた自分は、曲の、ほんの数小節を聴くだけで、和音の奥の深さや演奏の技術に打ちのめされる。

   消費者庁のホームページを見ると高齢者の屋内での事故が増えている。階段からの転落事故の死者は年約9500人という数字もある。フジコさんも昨年11月に都内の自宅の階段で転落。腰椎骨折の治療中にがんが発見されたとか。番組には長く高い階段の画像もあった。フジコさんの身を賭した警告が聞こえた気がして改めてわが家の階段を見上げた。(水)

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