苫小牧市と旧商業施設「苫小牧駅前プラザエガオ」の土地の一部を所有する不動産業大東開発(苫小牧市若草町)が協力して駅前再開発を進めることで合意し、大きな転換期を迎えた「エガオ問題」。多くの関係者は「(問題が)前に進んだことはよかった」と胸をなで下ろす。その半面、課題は山積しており、期待と不安が今なお交錯している。
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廃虚と化した空きビルと長らく向き合ってきた苫小牧駅前通商店街振興組合の木村司理事長は「やっとスタートラインに立った」と思いを共有する。市がエガオや旧バスターミナル、旧商業施設「苫小牧エスタ」を解体し、駅南側約3・3ヘクタールに子育て支援施設や商業、飲食機能を備えた複合施設などを配置する構想を示していることに「これからどんな絵が出て、実行に移されるか楽しみ。中途半端なことはしてほしくない。人口は減るから、苫小牧としては最後のチャンス」と強調する。
一方、市が土地交換による解決策にかじを取ったことには、「市民感情としては納得のいかない解決だと思う」と指摘する。木村理事長は、同社がエガオ運営会社サンプラザの事業停止直前に土地を取得した経緯などを疑問視し、市議時代もたびたび議会で取り上げてきた。市がエガオの土地や建物を集約するに当たり、同社を除く28個人・法人は無償譲渡に応じており、公平性を欠くことも指摘されてきた。
土地を市に無償譲渡した元地権者の一人は「言葉は悪いが(大東開発の)ごね得」と憤りを隠さない。他の地権者の心境も代弁するように「苫小牧の将来に関わる駅前の一等地だからこそ、無償譲渡して市に託した」と振り返り「何とかしなければならないのは分かるが、市はその思いをくみ取らなければならなかった」と苦言を呈した。
5日の記者会見で木村淳副市長は「このままだと時間だけが経過してしまう。市としても腹をくくった苦渋の決断をしなければならなかった」と一連の経緯を説明した。市は元地権者に対してすでに「一報」を伝えたというが、今後は「面談を含めて丁寧に説明をしていきたい」と強調。粘り強く思いを訴える考えだ。
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2014年8月にエガオが閉鎖してから約10年。事業主の高齢化や成り手の不足は進み、商店街は空き地や空き家が増えるなど、中心市街地を取り巻く環境は大きく変わった。苫小牧駅通中心商店街振興組合の野村信一理事長は「10年は非常に長かった」とかみしめるように言い、「なぜ10年もかかったのか。待った側としては説明責任を果たしてもらいたいし、反省もしてほしい」と続けた。
今後に向けてスピード感が求められるが、近年は原材料価格や人件費の高騰などもあり、膨大な解体費を含めた財源のやりくりも大きな課題だ。市は3月に駅周辺ビジョンに基づく基本構想を策定し、26年度の解体着手を目指すが、費用は旧エガオが約15億円、旧バスターミナルが約10億円と試算。再開発は民間投資を基本とするが、早期実現のために公費投入も想定される。市は国や道の補助金活用も模索しており、市総合政策部の町田雅人部長は「あらゆる可能性を探っていきたい」と話す。
「5期目を集大成」と位置付ける中、一丁目一番地の課題でもあった「エガオ問題」に一定の決着を見いだした岩倉博文市長。「これからヤマがどれだけ出てくるか分からないが、駅前再整備の道筋を示したい」と意気込む。残り約2年の任期でさらなる手腕が問われる。
※この企画は報道部・石川鉄也、今成佳恵が担当しました。