オホーツク管内遠軽町生まれの吉田傑(すぐる)は、日常生活に欠かせない身近な素材である段ボールを用いて、等身大の生き物を制作しています。紙としての柔軟性や加工の容易さ、さらには親しみやすさといった段ボールの可能性を感じたのが創作に取り組むきっかけだったといいます。
生き物たちの姿形はもちろんのこと、毛並みや肌の質感、そして骨組みなどの構造に至るまで、すべて段ボールと接着剤のみで制作しており、その卓越した技術は、子どもから大人まで多くの人々を魅了しています。
2019年以降、公立美術館での展示を継続的に行っており、20年に当館において開催した企画展「紙とアート:吉田傑の段ボールといきもの」でも、所蔵資料の剝製や標本と共に展示する機会に恵まれたので、作品をご覧になった方もいるかもしれません。本展では新たにダチョウやユキウサギ、カヤネズミといった作品が展示されています。
吉田の作品は、単体でも見応えがあるのはもちろんですが、本展での最大の見どころは、本連載で紹介してきた藤沢レオ、森迫暁夫の両氏の作品とのコラボレーションといえます。中でも、シャケが川を遡上(そじょう)するかのように宙を舞い、滝の流れを連想させる森迫の作品《ネタクマノマクタネ》へと向かう様子は、本展のクライマックスの一つといえるでしょう。本展は美術に関心の少ない方でも、アートの森を探索するかのように、感覚的にお楽しみいただける内容となっておりますので、この機会にぜひご来館いただければ幸いです。
(苫小牧市美術博物館学芸員 細矢久人)