「少しずつ山が動きそう」―。岩倉博文苫小牧市長は5月11日、自身の連合後援会が主催する「春の集い」(政治資金パーティー)で、JR苫小牧駅前再開発の支障になっていた「エガオ問題」に触れて話題を呼んだ。2014年8月に旧商業施設「苫小牧駅前プラザエガオ」が閉鎖して以来、約10年間にわたって廃虚化していた難題。その10日後の定例記者会見では「聞く人によってやや動くと思った人、まだしばらくかかると思った人と感じ方はそれぞれだと思うが、変わらず言っているつもり」と述べるにとどめたが、水面下ですでに解決への糸口を見いだしていた。
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エガオで土地の一部を所有する不動産業、大東開発との交渉はこれまで難航を極めていた。市はエガオの閉鎖を受けて当初、再開発を担う事業者に対してビル解体を条件に無償譲渡する方針の下、エガオの土地と建物の権利集約を進めた。地権者29法人・個人と交渉し、うち28法人・個人が市に無償譲渡したが、大東開発はこれに反発した。19年には同社が市に損害賠償を求める民事訴訟にまで発展し、1審、2審共に市が敗訴する事態に陥った。
交渉は平行線をたどり、無情にも時間が過ぎた。23年6月に岩倉市長と大東開発の三浦勇人社長が「トップ会談」に臨んだが、三浦社長はエガオにある5筆の土地を集約し、自社の土地で事業をしたいという考え方を改めて話すなどこう着状態だった。
市は土地交換する方針転換を決断。5月9日に市有地の旧バスターミナルとエガオ南側の駐車場を交換することで合意するなど環境を整えた。市と大東開発は今月4日、再開発を協力して進めることで合意。5日の記者会見で岩倉市長は、課題解決に約10年を要した経緯を踏まえ「経過を見ていただければご理解いただけるのでは」と説明した。
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さらに大東開発と話がまとまった背景として、複数の関係者は「(市が)2月にJR北海道と苫小牧エスタの一部などを取得することで合意したことがあるのでは」と推察する。駅前再開発がいよいよ具体化しようとする中、エガオだけが取り残される構図となり、落としどころを探る動きは加速した。
土地の譲渡にかかる時期や方法などは、今後調整していくことになるが、約10年にわたって主張が交わらなかった両者が手を取り、「エガオ問題」の解決に向けて歩み寄った。大東開発の三浦社長は「横の関係を持ちながら進めていきたい」と強調し、岩倉市長は「この10年間いろいろな経過があった中で、合意できたことはホッとすると同時に、さらに緊張感を持って再整備に向けて進めていかなければ」と話す。
市は3月に駅周辺ビジョンに基づく基本構想を策定した。エガオや旧駅前バスターミナル周辺約3・3ヘクタールを再整備区域と設定し、ホテルや商業スペース、子育て支援施設などを設ける方針で、関係者は「ようやくスタートラインに立つことができた」と口をそろえる。10年の間、止まっていた駅前の再開発がいよいよ動き出す。
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苫小牧市と大東開発は4日、JR苫小牧駅前の再開発を協力して進めることで合意し、5日に岩倉博文市長が発表した。課題解決まで約10年を要した交渉の経緯や、今後の展望などを緊急レポートする。