「えっ、先生、知らないの?」
むかわ町穂別に「こども食堂」ができたと聞いて驚く私に、患者さんの方が驚いていた。地区の共有スペースを使って行われ、週に1回、子どもには無料で夕食を提供しているのだという。
「へえ、役場も頑張ってるんだな」と保健師に尋ねると、「私たちも知らなかったんですよ」とのこと。「町の主婦や高校の寮で調理をしていた人たちが自主的にやってるんです。話が持ち上がってあっという間にスタートしたみたい」
早速、子ども食堂が開かれる木曜にその場に行ってみた。いつもはミーティングなどで使われている共有スペースの外に、「こども食堂」というのぼりが出ている。中に入ると、軽快な音楽が流れ、小学生や中学生、幼児と保護者たちがワイワイ。キッチンをのぞくと、女性たちが忙しそうに野菜を鍋に入れたり、盛り付けたりしている。その中に顔を知っている人がいたので声を掛けてみた。
「あ、先生。手伝いに来てくれたの?」
「ごめんなさい、今夜は別の予定があって。でもすごいね、資金はどうしてるの?」
「資金?そんなのないよ。農家さんから野菜を寄付してもらったり、みんなで持ち寄ったり。あとは大人からは300円頂いて、それを食材に充ててるの」
話している間にも、どんどん子どもたちがやって来る。どの顔もとてもうれしそう。私は、「すごい、すごい」とつぶやきながら、その場を後にした。
何かを地域のために始めたいなと思ったとき、私などはすぐにこう考えてしまう。
「まずは人手や準備資金を十分に集めて、行政の協力も得なければ。それに完全にボランティアだと続かないから、少しは報酬もあった方がいいな」
でも、穂別のこども食堂は、そんな考えをすべて吹き飛ばす。「やろうよ」と思った人たちが、すぐに行動に移して実現したのだ。そのパワーに感動する。
次は当直のない日を選んで、私も手伝いに行きたいと思う。きっと「調理はまかせられないから、お皿でも洗って」と言われるだろう。「あーダメダメ、そんな洗い方じゃ」と注意されるかもしれない。あまり役に立てないかもしれないけど、”子ども食堂の先輩たち”に指導してもらいながら頑張れたらいいな。
(むかわ町国保穂別診療所副所長、北洋大学客員教授)