苫小牧市は2024年度、市内在住の85歳以上で条件を満たした世帯を対象に、家庭ごみの戸別収集を実施する。「戸別収集85(エイティーファイブ)」と銘打ち、4月1日から申請を受け付ける。市は現在のモデル事業も継続し、いずれ全市拡大を目指す方針だ。一方、物価高騰などを背景に委託費が増える中、人手や収集車は不足している現状。業界団体や市議会の一部からは、戸別収集そのものに懸念の声も上がっている。(室谷実)
対象は1000世帯を想定
「戸別収集85」は「ふくしのまちづくり」の一環。全員が85歳以上の世帯のうち、戸建て住宅に住み、▽介護認定を受けていない▽障害者手帳を持たない―人が対象で、市は約1000世帯と想定。4月1日から電話で申し込みを受け付ける。審査は最大3カ月かかる見通しだ。
市の戸別収集は16年7月からモデル地区を設けて試行。現在のモデル対象は2月末現在、14地区約3100世帯。ごみステーション設置が困難な地域も対応し、計約4800世帯で戸別収集を実施している。
家庭ごみ収集の委託費は23年度、戸別収集を含めて約7億円。人件費や燃料費の高騰により、費用は年々増えているという。市ゼロごみ推進課は「人手不足や物価上昇で(戸別収集を)すぐに拡大はできない」と説明しつつ、「目標は全市で戸別収集」と話す。
市と苫小牧廃棄物協同組合は、現時点で85歳以上の希望者を加えても、現行の体制で対応できると判断。しかし、全市戸別収集に拡大した場合、同組合は「委託費は今の3倍。車両の増車も納車まで時間がかかる」と指摘する。
高齢者世帯の利便性向上に期待
戸別収集の見直しを訴えてきた市議会会派の改革フォーラムは「85歳以上世帯の戸別収集は賛成だが、モデル地区の戸別収集は公平性が保たれず、やめるべき」と提言。戸別収集で業者の負担が増しているとし、「結果的に失敗ではないか」と厳しく追及する。
市民の間でも戸別収集自体には賛否両論ある。戸別収集をごみ出しの改善や、環境意識の醸成などに役立てている自治体もあるが、従来のステーション収集は住民同士の交流を図れるなど、それぞれにメリット、デメリットがあるためだ。
ただ、新年度の戸別収集85は高齢世帯の利便性向上施策で期待が大きい。緑町の菅原裕子さん(82)は夫雅夫さん(90)と二人暮らし。戸別収集85の対象とはならないが「戸別収集地区に住む人から、ルールを守る人が増えたと聞いた。数年後、戸別収集を利用するか、検討したい」と話す。
戸別収集
容器を各家庭で用意してごみを入れ、自宅敷地内の道路に面した場所に出し、収集車の作業員が一軒ずつ回収する仕組み。モデル地区では、作業員が3人1組で収集車から降車し、容器がある場所まで移動してごみを集める。世帯によっては容器にごみを入れたか示していないこともあり、作業員は漏れがないよう一つずつ確認して回収。従来のステーション収集方式と比べて市民負担は減るが、作業員の確保やコストの増加が課題だ。