数千キロを南下して冬を越し、春にまた子育ての土地へ北上する渡り鳥の隊列や声に感動するのはなぜだろう。白鳥やガンが、隊列からはぐれないよう針路を教え合ったり、励ますように鳴き交わす声は毎年、季節になれば、苫小牧市西部の住宅地にも空高くから聞こえてくる。
「クエックエッ」「コーコー」という声を樽前の山頂付近でも何度か聞いた。太い国道などを目印に飛ぶ話は聞いたことがある。「樽前の東ピークに注意。南を回って―」。鳴き声にはそんな詳しい情報も含まれているのかもしれない。
春の渡りの季節が近づくと、津軽地方に伝わる雁(ガン)風呂の風習を思い出す。ガンは越冬地へ飛び立つ時、海上で疲れたときに波間に浮かべて休息の足場にする木の枝をくわえるそうだ。長い旅が終わり、陸奥湾が見えたら渡りの無事に感謝しながら、その枝を海に落とす。枝は津軽半島一帯の浜辺に打ち上げられる。春、北へ向かうガンが、またくわえて飛ぶ。浜辺に残った枝は事故で北へ向かえなかったガンの無念の忘れ物―。
一帯ではこの枝を拾い集めて風呂を沸かし、帰られなかったガンを供養するそうだ。啓蟄(けいちつ)の朝、青さを増した空の色に春を感じた。津軽の言い伝えを思い出し、胸が熱くなった。(水)