東京電力福島第1原発の敷地内にたまった放射性物質を含む処理水が海洋放出されてから約半年が経過した。これまで福島県で目立った風評被害は確認されていないが、数十年続くとされる廃炉作業に伴う処理水放出に不安が消えない漁業関係者は多い。それでも、県内で水揚げされた水産物「常磐もの」を応援する全国からの声に「応えたい」と奮闘を続ける。
◇戻らぬ漁獲量
浪江町の仲卸業者、柴強さん(57)。例年10件前後のふるさと納税の返礼品の注文が昨年、80件以上入った。あまりの多さに「年末は出荷量を確保するのに苦労するほどだった」。県内外からの声援に励まされる一方、「より品質の高いものをできるだけ安く提供したいが、水揚げ量の少なさがネックだ」と漏らす。
福島県漁業協同組合連合会によると、2022年の漁獲量は5604トンで、東日本大震災前の2割程度。県漁連の斎藤健さん(62)は「漁師も減り、海の状況も変わった。漁獲量を震災前までに復活させるのは困難」と明かす。県内の7漁協では国の補助金制度などを活用し、漁獲量を震災前の5割以上に戻すことを目標にしている。
12年6月からの試験操業では、1魚種1検体の自主検査を実施。時間の経過とともに、県漁連が出荷条件として設けた自主基準(1キロ当ベクレル)を超えることはほとんど無くなり、21年4月以降、本格操業へかじを切った。30年度までに10年度の販売量92億円を上回るのが目標だが、「販売先や流通も震災前に戻っていない。量をさばくための体制確保がまだまだ」と斎藤さんは語る。
◇収入増へ、工夫凝らす
相馬双葉漁協(相馬市)は、近年漁獲量が増えているトラフグのブランド化などで収入増につなげる戦略を進める。今ある資源を最大限に生かす持続可能な漁業を目指し、漁を週3回程度に制限。水揚げする魚の大きさにも規制を設ける。
最近は、網に掛かったヒラメなどがヨコエビに一部食べられている食害が悩みの種だが、同漁協の漁師石橋正裕さん(44)は「恵比寿ヒラメ」と名付け商品化を狙う。食害に遭ったヒラメは見た目は悪いが、内臓などがほとんど食べられ海中で血抜き、下処理が済んでいる状態で、「普通に食べられ、味は変わらずおいしい」と強調する。
石橋さんは「商品の味や品質を誰よりも知る漁師がアピールするのが一番」と地元で試食イベントを企画。まずは県内で知名度を上げ、新たな食文化として定着させたいという。「厳しい状況でも漁師の世代交代は進む。原発事故の風評被害を次世代に残さないため、常磐もののおいしさを伝えていきたい」と語る。