東日本大震災の教訓を全国の子どもたちに伝えようと、岩手、宮城、福島の東北3県では、被災地を巡る教育旅行の誘致を本格化させている。2023年には3県の伝承施設への来場者数が過去最多を記録。震災の風化を防止するとともに、観光振興にもつなげるための模索が続く。
伝承活動に取り組む個人や団体でつくる「3・11メモリアルネットワーク」によると、23年には3県の33施設・団体に約156万人が訪れ、前年(約118万人)の1・3倍に上った。
岩手県では、県内の子どもたちに震災の教訓を伝える活動が続く。内陸の住田町にある有住中学校1年の10人は23年12月、陸前高田市の「東日本大震災津波伝承館」を訪れた。
「いつ、どこで災害が起こるか分からない。自分の命を守ることができるか展示を通して考えて」。解説員の説明に、生徒たちは真剣なまなざしで聴き入った。
沢田彰弘副館長(55)は「旅先で災害に遭遇する可能性もある。伝承館を通じ、そういった場合に備えることを学んでほしい」と訴える。
南海トラフ地震で大きな被害が予想される静岡県。県立静岡商業高校の硬式野球部員約40人は23年12月、「震災の記憶を風化させたくない」という顧問の思いから、宮城県南三陸町の伝承館「南三陸311メモリアル」を訪れた。
館内のラーニングプログラムでは、部員同士が日ごろの防災意識について意見を交わした。2年の栗田輝空さん(17)は「予想をはるかに超える震災の怖さを実感した。日ごろから備えることの大切さも学んだ」と話した。
震災に加え、東京電力福島第1原発事故の影響が今なお残る福島県では、被災地域の復興の歩みを学ぶ教育旅行を「ホープツーリズム」と名付け、観光業の振興にも取り組む。県は、修学旅行や部活動などで県内を訪れ、バスを利用する学校に経費を一部補助。県内を訪れる人はコロナ禍の落ち込みから反転し、22年度に過去最多となった。