自動車エンジンを製造する企業で働く傍ら、「読み聞かせよっちゃん」として地域のさまざまな場所に出向いて絵本を読んでいる。活動を始めてもうすぐ3年がたつ。数えきれないほどの人と出会い、語らい、心を通わせてきた中で実感してきたのは、人と人がつながり合い、思いやり合える地域の大切さだ。「小さくても、そこにいるみんなが楽しく過ごせるコミュニティーがあちこちにあれば、きっとまちは元気でいられる」。活動を重ね、実感を強めている。
札幌市出身。両親は和菓子屋を営んでおり、小学生のころから手伝いで店先に立つように。常連客にかわいがられ、見守られながら幼少期を過ごした。
同市内の高校卒業後、神奈川県藤沢市の企業に就職した。休みの日には全国各地を旅することに夢中になった。北海道では見たことのない景色も魅力的だったが、それ以上に人のぬくもりを感じられる経験ができることが何よりの喜びだった。雨の日に歩いていたら、「ここに泊っていきな」と地域内にある寝泊施設を使わせてくれる人もおり、「人っていいな」という思いを強めていった。
28歳のころに転勤で苫小牧に引っ越し、結婚。2人の子どもにも恵まれた。子どもが幼いころには幼稚園や小学校で読み聞かせ活動を行ったが、その後は忙しさもあり、活動からは遠ざかっていた。
5年ほど前、苫小牧でIR(カジノを含む統合型リゾート施設)の誘致計画が浮上したのをきっかけに、IRについて考える市民の集まりに参加するようになった。当初は自然を愛する市民の立場として足を運んでいたが、次第に人と人が対話するという行為そのものに意義を見いだすように。「多様な立場、意見を持つ人が集まって対話することこそが、まちを良くする原動力なのでは」。そう強く感じ、人が集まる場に出向き、対話の機会を持ちたいと考えた。
人と出会い、話をするきっかけづくりの手段として、自宅にたくさんあった絵本を使うことを発案。「人見知りな自分でも、絵本があればどこにでも行ける」。バッグに絵本を忍ばせ、子ども食堂や地域のふれあいサロン、公共施設のお祭りなど人が集まる場所に行き、居合わせた人たちに絵本を読んだ。次第に「読み聞かせよっちゃん」は人々に浸透。「よっちゃん」を介して、知らない人同士がつながる新たな縁も生まれた。
最近では絵本の読み聞かせに加え、パステルアートのワークショップを公共施設などで開く活動にも取り組み、交流の輪をさらに広げている。
目標は地域の人たちが得意なことを生かし合い、子どもから高齢者までが楽しい時間を過ごせるような場をつくることだ。「なんとなく集まり、話をして、『楽しかったね』と言って帰っていけるような温かい場所をつくりたい」。少子高齢化の急速な進展で地域社会も大きく変わろうとしている中、人との交流で感じる喜びや生きがいは変わらない。そう信じ、歩みを進めている。
(姉歯百合子)
◇◆プロフィル◇◆
三浦 芳裕(みうら・よしひろ) 1967年4月、札幌市生まれ。いすゞエンジン製造北海道で働きながら、みんなが笑顔になれる苫小牧を目指して活動中。日本パステルホープアート協会の公認インストラクター資格も持つ。苫小牧市川沿町在住。