冬の足跡 加藤(かとう) 千昇(ちしょう)

  • ゆのみ, 特集
  • 2024年2月17日
冬の足跡 加藤(かとう) 千昇(ちしょう)

  苦手な食べ物はないけれど、苦手な季節がある。冬はどうしても気分がふさぎ込み、人と会ってもすぐに疲れてしまう。何度か自分なりに工夫をしてみたが、なかなか上手に冬を乗り越えられたことがない。日照時間が短いことや寒くて体中の筋肉がこわばっていることなど、理由を考えてみてもどうにもならない。

   雪が多く降ったおととしから数えて、厚真町で迎える3回目の冬。広大な大地が一晩で白く染まる雪景色にはいまだに新鮮な気持ちで驚き、感動を覚える。いつも運転中に見ている景色も、雪が降った日には全く違う表情になる。山の斜面に降り積もった白が輝いて、普段は見えない山の形が立体的に浮かび上がる。枝の先まで載った雪が、その造形のきめ細かさを際立たせる。そんな景色の一つ一つが、雪の日でも落ち込んだ自分を外に誘い出してくれる。

   河川敷の足跡は子どもたちのものだろう。そりで滑った跡がたくさん伸びていて、聞こえないはずの笑い声がそこにある。田畑に広く積もった雪の上には、野生動物の小さな足跡がある。大きなキャンバスに緩やかなカーブを描いて、優しい縫い目を残している。雪上に残った幾つものうたかたの歴史の横を通り過ぎていく。自分の後ろを振り返るとまたそこにも足跡があることに、どこか少し温かい気持ちになる。

   この先もきっと冬を上手に乗り越えらないかもしれない。それでも毎年冬にはこの町で、僕は何度でもその温かさに触れて寄り添い続けられたらいいと思う。

  (厚真町地域おこし協力隊)

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